価値の中心がハードからソフトウェアへ
第2層:SDV化――モビリティのiPhoneモーメント
破壊の第2層は、車の価値の中心がハードウェアからソフトウェアへと移行する「ソフトウェア規定自動車(SDV)」への転換である。これは、競争の本質を完全に変える、最も重要な変化といえる。
SDVの世界では、車の性能や魅力は、もはやエンジン出力や燃費、乗り心地といった物理的な要素だけで決まるのではない。むしろ、搭載されたソフトウェアが提供する体験価値(UX)によって定義される。その核心技術が、無線通信によるソフトウェア更新「OTA(Over-The-Air)アップデート」である。
OTAによって、自動車は購入後(納車後)も、あたかもスマートフォンのように機能が向上し、セキュリティが強化され、全く新しいサービスが追加されるようになる。たとえば、自動運転性能の改善、航続距離の向上、新しいインフォテインメント機能の追加などが、ディーラーに車を持ち込むことなく、自宅の駐車場で行われる。これにより、自動車は「所有した瞬間から劣化が始まる耐久消費財」から、「所有し続けることで進化し、価値が高まるデジタルデバイス」へと、その存在意義を根本から変える。まさに「走るスマホ」化と呼ぶべき現象である。
iPhone登場と同レベルの劇的変化
テスラが、大衆向けEVの先駆けとなった「モデル3」を発売した2017年が、自動車業界の「iPhoneモーメント(変革を起こした瞬間)」と呼ばれているのはこのためである。2007年に初代iPhoneが登場し、タッチスクリーンとアプリという優れたソフトウェア体験によって、わずか数年で従来の携帯電話(ガラケー)市場を破壊した歴史に倣った呼び方である。統計からも明らかなように、この年からテスラ・モデル3が原動力(テスラ・ドリブン)となって、世界全体でEVの本格的な普及が離陸した。
SDV化はまた、自動車メーカーのビジネスモデルをも変革している。OTAを通じて顧客との継続的な関係を維持し、自動運転機能やプレミアムコンテンツなどの機能をサブスクリプション形式で提供することで、車両販売後も収益を上げ続けることが可能になるのだ。

