短時間で全員脱出に成功した羽田の事故

CAは、お客様に快適な時間をお届けするだけでなく、万が一の事態に備える役割も担っています。そのため、日々の業務の裏側では、さまざまな緊急事態を想定した訓練が繰り返されています。

2024年1月、羽田空港で、日本航空機と海上保安庁の航空機が接触し、機体が炎上する事故が発生しました。この事故では、海上保安庁の航空機に搭乗していた方々に、尊い命の犠牲がありました。

2024年1月2日、海保機と衝突し炎上した新千歳発羽田行きのJAL516便
写真=日刊工業新聞/共同通信イメージズ
2024年1月2日、海保機と衝突し炎上した新千歳発羽田行きのJAL516便

その一方で、JAL機では、乗客乗員あわせて379名が全員脱出しています。現場では、CAの的確な判断と誘導に加え、乗客一人ひとりが状況を理解し、互いに声を掛け合いながら行動していたことが印象的でした。

香山万由理『気づかいの神さま』(PHP研究所)
香山万由理『気づかいの神さま』(PHP研究所)

混乱の中でも、「どうすれば安全に脱出できるか」という意識が自然と共有されていたことが、結果として多くの命を守る行動につながったのだと思います。

私自身も、この事故に関する解説でメディアに出演し、当時の映像をあらためて確認する機会がありました。そこに映っていたのは、特別な誰かの力ではなく、目の前の状況に冷静に向き合い、それぞれの役割を果たしている姿でした。

当時のCAの中には、経験の浅い若手も含まれていました。それでも現場で冷静に役割を果たしていたのは、日々の訓練によって、判断や動きが身体に染み込んでいたからにほかなりません。

日常の積み重ねが、いざという瞬間を支える

非常時にとっさに動けるかどうかは、その場で決まるものではありません。繰り返し身体に覚えさせてきたことが、とっさの判断や行動として表れるのです。それは、いざという瞬間に、隠すことなく表れます。

信頼もまた同じです。特別な場面で築かれるものではなく、日常の中で静かに積み重なり、ふとした瞬間にその人の“本当”として表れてきます。

だからこそ、ときどき立ち止まって考えてみたいのです。今の自分の振る舞いは、そのまま誰かに届いているだろうかと。何気ない日常の中にこそ、信頼は宿る。そう気づかせてくれた出来事でした。

(構成=力武亜矢)
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