気づかいができる人とはどういう人か。元JALのCAで『気づかいの神さま』(PHP研究所)を上梓した香山万由理さんは「皇室の方々の機内での過ごし方こそが、気づかいができる人の真骨頂だ」という――。
そうやって男をたぶらかしてきたんでしょ?
CAは入社してから、「おもてなし・ホスピタリティとは何か」を徹底的に学びます。しかし、それが形だけの振る舞いになってしまうと、心がこもっていないことは、不思議なほど相手に伝わってしまうものです。
私自身、そのことを痛感した出来事があります。
国際線のフライトでのことです。スーツを凛と着こなした女性の乗客から「雑誌をお願いできますか?」と言われ、数冊の雑誌を手に取って「こちらの雑誌はいかがでしょうか」と柔らかな笑顔でお渡ししたその瞬間。女性の表情が変わりました。
「あなた、そうやってニコニコして、男をたぶらかしてきたんでしょ? だからCAって嫌なのよね」
あまりに突然で、何が起きたのか理解できず、その場の空気が一瞬で変わったことだけをはっきりと覚えています。
私は「申し訳ございません」とお伝えしながらも、心の中では戸惑っていました。笑顔は相手を心地よくするものだと信じていたからです。
ただニコニコ笑うだけではダメ
しばらくして、ふと気づきました。問題は、笑顔そのものではなく、「その笑顔が相手にどう映っていたか」だったのではないかと。そのときの私の笑顔は、相手の雰囲気や心の状態を十分にくみ取らない、どこか表面的なものに見えていたのかもしれません。
そこで私は、お客様の空気感に合わせて、表情や声のトーンを整え、距離感を見直しました。すると、お客様の表情も次第にやわらぎ、降機の際には「ありがとう」と声をかけてくださいました。
気づかいとは、形ではなく「相手にどう届くか」です。同じ笑顔でも、相手によっては心地よさにも、違和感にもなり得る。笑顔は万能ではありません。相手の心の温度に寄り添ってこそ、はじめて信頼につながるのだと、この経験から学びました。

