皇族に学ぶ「後始末の美学」

CAとして多くのお客様と接する中で、思わず心を動かされるような気づかいに出会うことがあります。なかでも、皇室の方々が機内で過ごされる際の振る舞いには、深く印象に残っているものがあります。

皇族のフライトを担当していた元JALのCA・香山万由理さん
撮影=大崎えりや
皇族のフライトを担当していた元JALのCA・香山万由理さん

それは、ご利用になられたお席の整え方です。降機される際、その座席は、まるで最初から誰も使っていなかったかのように整えられています。

ブランケットは丁寧にたたまれ、シートベルトも元の位置に戻されている。一見すると目立たない所作ですが、そのひとつひとつに、周囲への配慮が感じられました。

こうした振る舞いは、人に見られているからこそ行うものではなく、次にその場を使う人や、後に関わる人への心配りから生まれているのだと思います。

短い時間の中でさりげなく整えられたその空間からは、言葉にしなくとも伝わる品格と、静かな感謝の気持ちが感じられました。

「ありがとう」の所作にも皇族流の気づかい

当時、皇室の方々にお声がけできるのはチーフパーサーに限られていたため、直接お話をする機会は多くありませんでした。それでも、飲み物やお食事をお出しする際の所作から、深いお気づかいを感じることがありました。

お飲み物をお渡しすると、必ずこちらに顔を向け、穏やかな表情で受け取ってくださるのです。目線だけでなく、きちんと顔ごと向けてくださる。そのわずかな動きに、「あなたに向き合っています」という気持ちが込められているように感じられました。

限られた動きの中でも、相手に対して正面から向き合おうとする姿勢。それは単なる動作ではなく、相手への敬意そのものなのだと思います。

私たちは日常の中で、「ありがとう」と言いながら、どこまで相手に向き合えているでしょうか。言葉は発していても、視線や身体の向きが伴っていないことは少なくありません。

ほんのわずかに顔を向ける。相手を見る。それだけで、同じ「ありがとう」の重みは大きく変わっていきます。何気ない一瞬の所作にこそ、その人の姿勢や心の在り方が表れる。そう教えられた気がした出来事でした。