生活すべてをカバーするアプリが台頭
――スーパーアプリ? なんか安っぽいヒーローみたいな名前だけど。
中身はとんでもない怪物だよ。簡単に言えば「スマホの中にもう一つの社会を作る」こと。日本だと、メッセージはLINE、買い物はAmazon、タクシーはUber、支払いはPayPayって、バラバラのアプリを使うことが多いよね?
――うん。それが普通じゃないの?
世界では違うんだ。中国のアプリ「WeChat」なら友達とチャットして、そのまま送金して、タクシーを呼んで、ホテルを予約して、電気代を払って、投資信託まで買える。一つのID、一つのパスワードで、生活が全部完結するんだよ。東南アジア発の「Grab」も、移動、食、決済のような生活インフラをすべてカバーするスーパーアプリを目指しているんだ。
――えっ、全部一つのアプリに入ってるの? 画面がごちゃごちゃしそう……。
そう思うよね。でも一度慣れると、もうほかのアプリを開くのが面倒になる。「このアプリさえあれば生きていける」という状態を作る、これが「囲い込み」、つまり現代最強のビジネスモデルなんだ。イーロン・マスクがX(旧Twitter)を買収してやりたかったのも、まさにこれさ。
「App Store」「Google Play」は不要
――なるほどね……。日本にはそういうのないの?
LINEやPayPayもそれを目指してはいるけど、海外勢には負けているね。なによりも、「生活のすべてが完結する」って言葉の本当の意味、わかるかい? これは単に「便利な機能がたくさん入ってる」ってレベルじゃないんだ。
――それ以上、なにがあるの?
スーパーアプリの本当の恐ろしさは、「アプリストアがいらなくなる」ことと、「人間の行動を格付けする」ことにあるんだよ。
――格付け……?
まず一つめ。中国のWeChatの中には「ミニアプリ」(注3)って呼ばれる小さなプログラムが数百万個も入ってる。だからユーザーは、新しいアプリをわざわざダウンロードしたりインストールしたりする必要がないんだ。WeChatの中で検索すれば、すぐに起動して使える。つまり、スマホのホーム画面にある「App Store」や「Google Play」が、実質いらなくなっちゃうんだよ。
注3 ミニアプリ(Mini Programs)
スーパーアプリ内(WeChatやLINEなど)で動く、ダウンロード不要の軽量なアプリのこと。ユーザーは「アプリをインストールする」という手間から解放され、企業側も開発コストを下げられる。アプリストア(OS)の支配力を脅かす技術として注目されている。

