AIは人間より賢く、ロボットは疲れない。そんな時代に、人間は本当に必要とされ続けるのだろうか。ソニーグループのエンジニア・礒津政明さんは、だからこそ「人間の不完全さ」にこそ価値があると語る。著書『父が娘と語り尽くす 深く、わかりやすく、とんでもなく熱い テクノロジー全史』(実務教育出版)より、女子高生の娘との対話形式で、その理由を紹介する――。
ロボット対人間
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なぜ、「不完全さ」に心が動くのか

――ねえ、パパ。

ん? どうしたんだい、改まって。

――これまでいろんな話を聞いてきて、正直ちょっと怖くなっちゃった。AIは私より賢いし、ロボットは疲れない。遺伝子操作で天才も作れるし、世界はシミュレーションかもしれない。そんなカンペキなテクノロジーに囲まれたら、私みたいな「暗記もできない、すぐ疲れる、感情的になる」人間なんて、もう要らないんじゃないかなって。

なるほど。エナは自分が「欠陥品」に思えてきたわけだ。

――うん。だってAIならミスしないもん。人間って、効率悪いし、脆いし、すぐ死んじゃうし……コスパ最悪じゃん。

ハハハ! たしかにスペックだけで見れば、人類は皆ポンコツだ。でもねエナ。だからこそ、人間は尊いんだよ。最後は、その「不完全さ(バグ)」の話をしようか。

――不完全さが尊い? 負け惜しみに聞こえるけど。

じゃあ聞くけど、エナはなぜ「アイドルのライブ」に行くんだい? CD音源の方が、音程もカンペキでノイズもないのに。

――それは……生だからだよ! 歌詞間違えたり、声が裏返ったり、MCで噛んだりするハプニングも含めて「その瞬間しか見れない」から感動するんじゃん。

その通り! でも、もしアイドルがロボットで、毎回1ミリの狂いもなく完璧なダンスと歌を披露したらどう思う?

――最初はすごいけど……すぐ飽きるかも。「どうせ失敗しないし」って思うと、ドキドキしないしさ。

でしょ? 人間は本能的に「カンペキ」を求めているようで、じつは「揺らぎ」や「ノイズ」を愛しているんだ。AIが描いた非の打ちどころのない美少女の絵よりも、エナが悩みながら描いたデッサンの方に心が動かされるのは、そこに「葛藤」や「物語」があるからだよ。