無駄のなかに人生の豊かさがある

――葛藤……。

これまで話してきた通り、テクノロジーは「正解」を出すのは得意だよね。「Aへの最短ルートはこれです」「この株を買えば儲かります」とか。でも、「どっちの道に行けばワクワクするか?」とか「損してもいいから応援したい」という感情は、計算できない「ムダ」の中にしかない。

――たしかに。AIに「コスパ最高の彼氏」を選んでもらっても、好きになれるかどうかは別だもんね。

そう(笑)。人生の豊かさは、効率化できない部分――つまり「ムダ話」「失敗」「遠回り」「カン違い」の中に詰まっている。エナがさっき言った「人間はコスパが悪い」というのは、裏を返せば「人間は最高に贅沢な存在」ということでもあるんだよ。

「死」が進化の最強エンジン

――贅沢……。ポンコツも悪くないってこと?

うん。それに、人間にはAIには絶対に持てない「最強の機能」がある。

――なにそれ?

それは「死ぬこと」さ。

遺影を見つめる人
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
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――はあ? 死ぬのが最強の機能? パパ、縁起でもないこと言わないでよ!

いや、大真面目だよ。AIやデータは、理論上「永遠」に生きられる。コピーもできるし、バックアップも取れる。でも人間は違う。コピー不能で、一度壊れたら終わり。そして必ず終わり(死)が来る。

――だから儚くてダメなんじゃん。

違うよ。終わりがあるからこそ、この一瞬が輝くんだ。夏休みがなぜ楽しいか、わかるかい? 終わり、つまり「8月31日」があるからだよ。もし夏休みが永遠に続くなら、今日海に行くことになんの価値もなくなる。

――あー……。たしかに「いつでも行ける」と思うと、ずっとダラダラしちゃうかも。

でしょ? 人間は「かぎられた時間」という制約があるからこそ、必死に学び、愛し、なにかを残そうとがんばる。その必死なエネルギーが、芸術や文化、そして新しいテクノロジーを生み出してきたんだ。「死」というシステムこそ、じつは人類を進化させる最大のエンジンなんだよ。