受注につながるキーパーソンを探り出す「探客術」
――ファクトファインディング、WE営業、いずれも重要だと感じましたが、大前提「営業プロセスを効率的に進めていくうえで、誰にアプローチするか」も大事なのでは、と感じました。今回の趣旨とはズレますが……。
今井:その通りです。営業支援のソリューションを提供する立場としては意外に思われるかもしれませんが、営業力と同じくらい、あるいはそれ以上に「探客力」は受注率に影響します。
――やはりそうですよね。アプローチすべき方の特徴とは何でしょうか?
今井:「権限」と「熱量」の掛け算で考えます。
単純に決裁権者だと思う方も多そうですが、たとえ役職が高くなくても、課題解決に対して強いリーダーシップを発揮し、必要な予算や上司を引っ張ってこられるキーパーソンは存在します。逆に、決裁権者であっても衝突を恐れる人や失敗したくない人はあまり相応しくありません。特に予算化されていないプロジェクトの場合、現状や周囲の人の考え方を変える強いエネルギーが必要だからです。
では、どうやってキーパーソンを見つけるのか。私がよくやるのは、組織図の読み解きです。
既存の事業部に追加で「特命組織」が作られることがあります。例えば、「AI活用推進部」「DX推進室」「働き方改革室」など。
こうした特命組織に抜擢される人は、どんなタイプだと思いますか?
多くの場合、既存の枠組みを変えることを組織から期待されたエース級の人材です。
――なるほど。そうやって外部から絞り込むこともできるんですね。
今井:とはいえ、見定めてアプローチしても断られることはあると思います。
私自身、CMOとして購買の意思決定をする立場でもありますが、以前こういう出来事がありました。
ある企業の営業から「社員のSNS発信を強化し、社員個人を採用メディア化しませんか?」というご提案をいただいたのですが、「影響力の強い私自身のSNSアカウントを活用したほうが効率的なのでは」と思ったこともあり、私にはあまり刺さらなかったのです。
しかしその方は別ルートで弊社の代表にアプローチし、結果として受注に至りました。なぜか。代表が当時「社員の居場所作り」や「社員一人ひとりがセレブリックスの代表になる」というマインドを重視していたからです。つまり、代表にとってはすごくホットな提案だった。
この経験から学んだのは、「個人への失注」を「企業への失注」と勘違いしてはいけないということです。人や部署によって強みや抱えている課題感は違う。ある人に刺さらなかった提案が、別の人には刺さるかもしれない。
――アプローチする人を変えれば、チャンスも生まれると。
今井:そうですね。むしろ断られた時こそ、リサーチして挽回するチャンスだと捉える。例えば、こういう聞き方で。
ただ、後学のために2点教えていただけないでしょうか? 御社の中で、○○さん以外に関心を持ちそうな方はいらっしゃいますか? また、私の提案を聞いて、率直にどこが刺さらなかったか教えていただけますか?
面白いことに「もう営業しない」と宣言すると、安心して本音を話してくれる人は少なくありません。それだけでなく「隣の部署の部長が興味あるかも」と別の提案先を紹介してくれることすらあります。断られたとしても「タダでは帰らない」。これは優れた営業が持つマインドだと思います。
探客において大切なこと
● 「権限と熱量の掛け算」でキーパーソンを探す
● 組織図を読み解き、「特命組織」に着目する
● たとえ断られても「リサーチのチャンス」として捉える
「誰もが誰かに営業している」。営業スキルや交渉力を磨くことがキャリアを豊かにする
――ありがとうございます。ここまでのお話をお伺いして、今井さんのおっしゃっていることは営業以外のお仕事にも役立つように感じました。
今井:ファクトファインディングや巻き込み、探客といったスキルは、営業だけでなく、人生のあらゆる局面で役立ちます。
私の中で確信めいた考え方があって。それは「誰もが誰かに営業している」。
上司やパートナーとの意見のすり合わせ、経営者の資金調達、転職活動。相手の課題を設定し、それに合わせて自分の価値を提案し、合意形成を図る点ではすべて「営業」と言えるのではないでしょうか。
例えば、採用面接で「今、どんな人を求めているのですか?」と企業側に要件を確かめたうえで話すと、伝わり方が変わります。「御社を志望した理由は〜」「私の強みは〜」と自分のスペックや経歴を一方的にアピールする前に、企業が求める人材のディテールや、企業の現状の把握を意識してみると、より相手の心を掴みやすいでしょう。
営業には「顧客を理想の未来へ導く」という視点が欠かせません。迷ったときは、その営業の基本に立ち返り、目の前の人を「理想の未来」へ導けているかどうか自問する。そうすれば、どんな相手とも前向きな関係やチームを築きやすくなり、仕事の質もきっと上がるはずです。
取材・編集:はてな編集部 写真:小野奈那子 制作:マイナビ転職





