還暦をすぎて、健全な思考を保つには何を意識するといいか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんは「現代人の多くは、お金と出世、それに結びつく偏差値、そしてナショナリズムを追い求めている。しかし還暦をすぎると拝金教と出世教、偏差値教は次第に関係なくなり、最後にはナショナリズムという宗教が残る」という――。

※本稿は、佐藤優『還暦からの人生戦略』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

新聞を読みながら笑顔になる高齢男性
写真=iStock.com/eggeeggjiew
※写真はイメージです

国民の不満と怒りを解消する常套手段

ナショナリズム(国家主義・民族主義)というのは、実はなかなか難しい概念であり現象です。アーネスト・ゲルナーという英国の哲学者が、『民族とナショナリズム』(岩波書店)という本でナショナリズムの本質を鋭く考察しています。

ナショナリズムは国民国家が誕生し、産業社会が誕生することによって必然的に生み出されたものだとゲルナーは指摘します。

産業社会によってつくられた封建的なシステムから解放された多くの人々は、家や土地、地域といったしがらみから自由になります。

一方、自由は同時に不安や孤独を伴いますが、それを解消するのが文化的な同質性であり、民族的な同質性。これがナショナリズムへとつながっていくのです。

産業社会はその進展とともに、これもほぼ必然的に貧富の差を生み出します。この格差は当然、人々に不満と怒りの感情を呼び覚まします。ナショナリズムは、それを解消するための有効な手段としても使われるのです。

不安から国民の目をそらすために、あえて他国を悪者にして攻撃する。ナショナリズムを高めることで内部の矛盾や緊張をごまかすというのが、国家の常套手段でもあります。