――相手も気付いていないことに気付かせる、というイメージでしょうか。でもそれってかなり難しそうですよね。
今井:おっしゃる通り、営業のプロセスにおいて最も難しいポイントです。商談準備やプレゼンと違って営業だけで完結させられず、顧客の出方によって対応の分岐も変わりますから。しかし、ここでどこまで情報を引き出せて、どんな課題を設定できたかで、その後の展開が大きく変わります。
――ファクトファインディングの具体的な手法について教えていただけますか?
今井:一つ目は「未来逆算思考」です。
よく顧客に「今、何に困っていますか?」と聞く営業がいますよね。私は「困りごとドリブン」と表現していますが、この聞き方はすでに買う意思のある顧客にしか効果を発揮しません。なぜなら、買う意思のない顧客は困っていること自体がない(≒認識していない)からです。
ではどうするのが良いのかというと、未来に時間軸を設定して
どんな目標を達成しなければならないんですか?
と、各自が持つ理想像や目標を聞くのです。
そのうえで
と問いかける。
狙いとしては、理想(未来)と現実(現在)のギャップを意識させることです。課題とは得てして理想と現実のギャップから生まれます。
――面白いですね。課題を意識していない人に課題を意識させる技術として、営業以外の局面でも役立ちそうです。
今井:併せて身に付けたいのが「抽象化」の話術です。
例えば、「人が足りないから採用したい」と言う顧客に対し、「どの部署にどんな人が何人必要ですか?」と聞く営業は多いと思いますが、これは「具体化」で、もっぱら営業活動の後半、“何をどう買うか”を検討するフェーズになってから必要なコミュニケーションです。
課題設定の局面でやるべきは
という問いかけです。抽象度を上げて目的自体を問い直す。すると「採用ではなく、既存社員の教育が必要かもしれない」「業務フローの見直しが必要かもしれない」という別の課題が立ち現れ、そこから提案機会につながる可能性もあります。
――話を掘り下げる方向性として、具体化だけでなく抽象化も有効だと。抽象化で新しい世界が開けるという示唆も興味深いですね。
今井:そうですね。課題が生まれると、その提案を前向きに捉えていただける可能性が高まります。課題設定とは、相手の事情に合わせて目的ややるべきことを再定義するプロセスと言えます。
余談ですが、ファクトファインディングを活用した課題設定は、AIが営業活動にも浸透する中、ますます重要視されると思います。
なぜなら、AIは企業が抱える課題を「コモディティ化(差別化が難しく市場価値が下がっている状態)」するからです。AI活用が進むほど、課題の仮説は似通いやすくなる傾向があります。企業のWebサイトや中期経営計画書をAIに読み込ませ、「この会社の課題は?」と聞けば、誰がやっても同じような仮説が出てくる。結果として、「どこかで見たようなつまらない提案」が世の中に溢れかえる。
だからこそ今後は「実は部長と課長で意見が割れていて……」「現場は今のシステムにこんな不満を持っていて……」といった、ネット上にない“生々しい一次情報”を顧客から引き出せるかどうかが、営業活動の明暗を分けるのではないでしょうか。
ファクトファインディングにおいて大切なこと
● 相手もまだ認識できていないような事実を引き出す
● 時間軸を「未来」に設定し、理想と現実のギャップを意識させる
● 話を「抽象化」することで目的自体を問い直す

