アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズは2011年10月に亡くなるまで、何度も日本を訪れた。禅文化に傾倒していた彼は、特に京都を愛していたという。元NHK記者の佐伯健太郎さんの著書『スティーブ・ジョブズ1.0の真実』(晶文社)より、一部を紹介する――。
海外VIPが訪れる京都の老舗すし店
2020年11月初め、僕は京都にいた。
ジョブズが生前、たびたび京都を訪れていたことはよく知られている。番組に必要な要素を集めるためのリサーチとして、彼の足取りを現地でたどってみることにした。
取材の基本中の基本、「地取り取材」だ。どんなに情報がネットにあふれる時代になっても、その真偽とファクトを自分で確認しなければ、取材したとは言えない。自分の足を使ってネタを探しまわり、相手の話にじっくりと耳を傾けて、知られざる一次情報を聞き出す。新人の頃から続けてきた取材の習慣だ。
まず訪ねたのは名店「すし岩」だった。創業は1960年。京都ですし店と言えば出前がほとんどだったという時代に、当時としては珍しいカウンター席をメインにスタートした。2代目店主の大西俊也さんが英語を話すことから、外国人のVIPも多く訪れる。マドンナも来たことがあるという。大西さんは僕と同じ歳だった。ジョブズが訪れた日のことを話してくれた。
カウンター席の一番奥がお気に入り
それは、ジョブズが亡くなる1年余り前の2010年7月、最後となった京都旅行の最終日だった。昼前、大西さんは「今から外国人の方、3名様をお願いします」という連絡を受けた。
店に入ってきたのは3人の家族連れだった。ジョブズが座ったのはカウンター席の一番奥だった。アメリカのすし店でもお気に入りの席だ。隣に娘のエリン、そして妻のローリーンが座った。ジョブズは、家族にとても気をつかういい父親だったという。ただ、かなりやせていたため、大西さんはすぐにジョブズとはわからず、あとからびっくりしたという。

