「もう京都には来られないかもしれない」
食事を終えると、ジョブズが「名刺をくれ」と言ってきた。大西さんが「次回もどうぞよろしくお願いします」と声をかけて名刺を渡したところ、彼はショッキングなことを言った。
「実はもう、京都には来られないかもしれない。僕はすごく大きな病気をしていて、体調もあまりすぐれない。だから、もしかしたら、京都への旅行はこれが最後になるかもしれない」
その言葉どおり、ジョブズには最後の京都になってしまった。
これが最後と思ったからだろうか。店の中でのジョブズには、そうだと思われる振る舞いが感じられる。
ジョブズはカマトロをよほど気に入ったのだろう。大西さんを驚かせることを言った。
「きょうのすしはすごくおいしかった。僕がアメリカでいつも行っているすし店に教えに来てくれないか」
大西さんが思わず、「それはあなたの店ですか?」と聞くと、「いや、僕が通っている店だ」と答えた。大西さんは、「あなたの店ならコーチに行きますが」という気持ちだった。
同業者としてはあり得ないことを言われてびっくりした。
プライベートジェットでの配達を依頼
ジョブズはこんなことも言った。
「きょうのすしを気に入ったので、もし、僕がここへ来られなくても、連絡をするからアメリカにデリバリー(配達)に来てくれ」
大西さんが「ちょっと遠いな」と思いながらも、「時間もかかるし、前もっておっしゃってくだされば行きます」と答えると、ジョブズは、「プライベートジェットで迎えに来て、あなたもスタッフも道具も全部積み込んで、うちに直接来てくれたら大丈夫だ」と言った。
そのときを振り返って大西さんが言った。
「やっぱりVIPは考え方も違うし、おっしゃることも違うんだなと、ものすごくびっくりしました」
ジョブズはきっと、店ごとアメリカに持ち帰りたかったにちがいない。

