大間産の大トロを一口食べると…
妻と娘はコースを注文した。ジョブズは「僕はすしが好きだから、ほかのものはいらない」と言った。大西さんが「何をにぎりましょうか」と聞くと、「あなたが勧める旬のおいしいものをにぎってくれたらいいよ」と注文した。
関西は白身魚で有名なことから、大西さんはまずヒラメをにぎり、続いて、イカ、エビと出していった。ジョブズは、「なにか京都の隠れたいい情報はないか」と大西さんに尋ねて会話も楽しんでいた。
このとき最高級品の青森県大間のマグロが入っていた。海外からの客はトロを喜ぶ人が多いので、大西さんは次にトロを出した。すると、トロを口にしたジョブズは急に話さなくなった。これはなんだという表情で、トロを見ながら2、3分黙っていた。
大西さんが「どうかしましたか。これはマグロ、fatty tuna(大トロ)ですよ」と声をかけると、ジョブズが「このあと、何をにぎってくれるの」と聞いてきた。「いま、ちょっと考えているんです」と答えると、ジョブズは「僕は、あとはトロだけでいいから、ストップと言うまで、ずっとトロをにぎってくれ」と注文した。
一人で6貫、ペロリと平らげた
大西さんは、ジョブズが「もう、僕はここでいい」とストップをかけるまで、トロを立て続けに合わせて6貫にぎった。
ジョブズはひとりで黙々と食べていた。「お前たちもどうだ」と家族に勧めることもなかった。
それは、特に脂が乗った、スジがなく、食べやすいと人気のある、「カマ」という希少な首の部位だった。大西さんによると、「カマトロ」を続けて食べると、口の中が脂だらけになるそうだ。それだけに、ジョブズの食べっぷりは、大西さんに強烈な印象を残した。
「途中で気に入ったからあとはトロばかりでいいと言うお客様は、まずいません。大間のトロはすごく脂が乗っていて、けっこうヘビーな味で、にぎるたびに素早くパッパパッパと召し上がったので、よっぽど好きなんやなと思ってびっくりしました」

