泣きながら右手で給食を食べた

実は、礼さんは左利きにまつわる悲しい過去があった。

保育園に通っていた幼少期、左手でスプーンを持って食べようとした際に、保育士から「左手で持つならもう給食を食べさせないよ」と言われ、泣きながら右手を使った記憶があるという。

小学校に入ると親から筆記具を右に持つよう言われていたため、家では右手を使っているように振る舞った。「母に対して、祖父母からの『みっともないから直させなさい』っていうプレッシャーがあったと、大人になってから聞きました」と礼さんは振り返る。

こうした経験から、礼さんは年齢を重ねるごとに道具に対して強い関心を抱くようになっていた。

さっそく礼さんはこのアイデアを信吾さんに提案したところ、「文具の利益率は低いし、ニッチ過ぎるんじゃない?」と却下されてしまった。礼さんは小売業のイメージをざっくりとしか理解していなかったため、「それもそうだなぁ」と一旦は受け入れた。

インタビューを受ける礼さん
筆者撮影
インタビューを受ける礼さん

諦められず、夫に再び提案

そのやりとりの後も、礼さんは自分のアイデアを忘れることができなかった。転機となったのは1年後。共通の知人であるママ友に自分の構想を話した時、「それはすごい面白い!」「ぜひやりなよ」と背中を押された。そこから、礼さんの思いはますます募った。

2018年7月6日、レストランで誕生日を祝われていた席で、礼さんは夫にこう切り出した。

「やっぱり、左利きのお店をやりたい!」

彼女の本気を目のあたりにした信吾さんは「これはもう、やるしかない」と事業化を決意。その日のうちに左利きについて調べると、8月13日が「左利きの日」であることを知る。顔を見合わせた2人は「左利きの日にオンラインショップを開設しよう」と決めた。

そこからわずか1カ月。加藤夫妻は力を合わせ、準備を一気に進めた。知り合いのウェブデザイナーやイラストレーターに相談し、ショップの顔となるシロクマのキャラクターも誕生した。ずんぐりとした体つきで左手を上げたシロクマを指しながら、信吾さんは「シロクマは左利きという言い伝えがあるらしいんです。それでちょうどいいと思って」と微笑んだ。

マスコットキャラクターのシロクマ
筆者撮影
マスコットキャラクターのシロクマ