初月の売上は、わずか4104円だった。左利き用の道具を扱う「左ききの道具店」を営む加藤信吾さん、礼さん夫妻は、それでも「これはいける」と思った。人口の約10%しかいない左利きの市場。“10%の人のための店”は、いまや全国から客が訪れるまでに成長した。なぜこのニッチな分野で店を始めたのか。インタビューライターの池田アユリさんが、夫婦と店の軌跡を描く――。
「左ききの道具店」を営む加藤信吾さん、礼さん夫妻
筆者撮影
「左ききの道具店」を営む加藤信吾さん、礼さん夫妻

ニッチすぎる「左利き」の道具店

岐阜駅から車で約30分。いちょう通りと呼ばれる車道を進んだ先に、左利きのための商品が販売されている店がある。その名も、「左ききの道具店 ときどきストア」だ。

外から見ると控えめな佇まいだが、扉を開けると、そこには、今まで意識することもなかった「左利きのための世界」が広がっていた。

店内は白を基調とした空間に、カラフルなハサミやカッター、メジャーなどが並ぶ。試用できるテーブルには左右どちらでも使いやすいフライ返し、レードル(おたま)などのキッチン用品が置いてある。

まず目を引くのは、店の主力商品でもある手帳コーナーだ。鮮やかな色合いの「左ききの手帳 2026」が、整然と積まれている。

「左ききの道具店」の店内
筆者撮影
「左ききの道具店」の店内

取材に同行した私の妹は、左利きだ。普段は右利きの道具を使うことに慣れているため、見慣れない「左利きのための文具」の数々を興味深く眺め、思わず手を伸ばしていた。

店は加藤信吾さんとあやさん夫妻が営んでいる。岐阜県各務原市にある同店は、もともとは2人が倉庫や事務所として利用していたのを一部改装し、実店舗を開いたという。

左利きは人口の約10%と言われている。なぜ、加藤夫妻はニッチな市場に挑んだのか。その背景には、左利きの女性が日常で感じていたささやかな「不便」と「肯定されたい」という強い思いがあった。

子育てに追われる中で

愛知県瀬戸市出身の信吾さんと、半田市出身の礼さんは30代前半で結婚した。信吾さんは映像制作会社、ITベンチャーを経て、2015年3月にコピーライターとして独立。名古屋の地で、株式会社ランチを立ち上げた。

一方、その頃の礼さんは会社員だったが、仕事のハードさから体調を崩し退職。2014年に長女、その3年後に次女が生まれ、4人家族となった。夫の独立も重なり、礼さんは専業主婦としてめまぐるしい日々を過ごしていた。「子どもはまだ小さいし、当時のことが思い出せないくらい毎日必死でした」と礼さんは振り返る。

独立から2年後、信吾さんは日本政策金融公庫で300万円を借り入れ、その資金を元手に、夫婦で新しい事業をしようと考え始めた。

ある日、信吾さんに「なにか、やりたい事業はない?」と聞かれ、礼さんは「そんなこと急に言われても……」と思ったという。だが考えるうちに、彼女自身が左利きで、雑貨や文房具が好きなことから、「左利きの道具を販売するのはどうだろう?」と思い至った。