右手を動かせなくなった人からの声

リアル店舗「ときどきストア」には、この店を目当てに全国から客がやってくるという。「実際に商品に触れたい」という思いもあるだろうが、「店長とゆっくり話ができるから」と足を運ぶ人も少なくない。

「今までで、印象的なお客さんはいらっしゃいますか?」と尋ねると、礼さんはしんみりとした表情で語った。

「その方はお電話だけだったんですけど、以前、脳卒中の後遺症などで右手が使えなくなって、左手用の道具を必要としている方から、『リハビリを頑張っている』という状況をお話くださったんです。感極まって泣かれていて、『こういうお店を作ってくれて本当にありがたい』と言ってもらいました」

この言葉を受けて、信吾さんはこのように語る。

「ビジネス的には、大成功するタイプの店ではないと思います。でも必要としてくれる方がいるなら、長く続けられるようにやっていきたいです。それが僕らの役目でもあると思ってます」

「必要とする人に、必要なものを届ける」

加藤夫妻の商売は、「必要とする人に、必要なものを届ける」という、ニッチながらも長く続けられる仕組みだ。そこには、礼さんの「左利きの人を肯定したい」という思いと、妻の思いをカタチにする夫の奮闘があった。

「やっぱり、私の子どもの頃の経験からきていると思います。自分にあった道具を使う気持ち良さだったりとか、楽しさだったり。そういう思いや体験をしていただける方が増えればいいなって。『左利きで良かったな』って、一瞬でも思ってもらえればいいなと思います」

右利き用のフライ返し
筆者撮影
右手用のフライ返しは内側が長いため、左利きの人には不向き。小さなことだが、使い勝手が各段に上がる
左利き用のフライ返し
筆者撮影
左利き向けのフライ返し

店の片隅には、客が来店時に残すためのメッセージノートが置かれている。そこには、訪れた客の喜びの声、そして温かい言葉が詰まっていた。

取材に同行した左利きの妹は、気に入った商品を購入し、嬉しそうに眺めた。彼女が選んだのは、利き手を選ばないカッターナイフだった。「家族で使えた方がいい」というのが、購入の決め手だったという。妹も私も、今まで気が付かなかった「日常の道具」に対する新しい価値観に触れた瞬間だった。

左利きの人に優しい世界を届けるために、加藤夫妻は挑戦を続ける
筆者撮影
左利きの人に優しい世界を届けるために、加藤夫妻は挑戦を続ける