初月の売り上げは4104円

2018年8月13日、2人は満を持してオンラインショップ「左ききの道具店」を立ち上げた。だが、初期に販売した商品は、パン切り包丁、色鉛筆など4品のみ。初月の売上はパン切りナイフ1本の4104円で、生活費の足しにもならない数字だった。

そもそも市場規模は限りなく狭い。左利きの人口は約10%で、しかも「箸は左、ハサミは右」という人も多く、左利きであっても右利きの道具に順応している人が圧倒的だ。

それでも2人は前向きだった。「市場は小さいけど、競合がいないから、ギリギリ食える可能性があると思いました」と信吾さん。実際、当時は国内外を見渡しても、左利きに特化した専門店は存在しなかった。鍋やレードル、文房具など商品分野は幅広く、1つのメーカーで全てを賄いづらい。利益率は上がらず参入する企業はほとんどいなかった。

さらに追い風になったのが、開店と同時に始めた公式SNS、特にXだった。「左利きの日」とハッシュタグをつけると、趣味や年齢、属性を超えてコメントが来たり、拡散されたりした。「左利き」という連帯感のようなものが生まれ、交流の輪が広がっていた。

普段はSNSを見るだけだった礼さんも、アカウント運営を通じて「すごく楽しい!」と感じるようになり、ネット上で個人店を営む人たちとつながるうちに店の認知度も少しずつ高まっていった。

左右どちらからも使えるレードル
筆者撮影
左右どちらからも使えるレードル

左利きだからこその強み

2019年9月、2人は自ら商品開発に取り組み始めた。きっかけは、長年手書きの手帳ユーザーである礼さんが「手帳もよく見ると、右利き優位に作られているのでは?」と感じたことだった。

例えば、週間レフトタイプの手帳は、左ページがスケジュール、右がメモになっている。左利きの人がメモを書こうとすると、手に隠れてスケジュールの内容が見えなくなる。月間タイプでは、左上に日付が書かれていることが多く、こちらも書いている左手で数字が隠れてしまう。礼さんは、こうした小さな不便さを感じていた。

ある時Xで、手帳メーカーの菁文堂せいぶんどうが「左利きの手帳って、どうだろう」と投稿しているのを見かけた。

「これは、チャンス! 一緒に作りたい」

そう思った礼さんはすぐに連絡を取った。

数日後、2人は東京都台東区にある菁文堂を訪問。話はとんとん拍子に進み、共同開発が決まった。多くの手帳が発売する時期を過ぎていたが、「せっかくなら、来年度の手帳に間に合わせよう」と2020年の手帳作りが始まった。

左利きの手帳を説明する礼さん
筆者撮影
左利きの手帳を説明する礼さん