※本稿は、犬塚壮志『「説明」がうまい人がいつも頭においていること』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
なぜ説明が上手な人の言葉は「心地良い」のか
自分にとっては当然でも、相手にとっては聞き覚えのない言葉もあります。
ある老舗企業で、若手従業員が、社長に、新しい販売戦略を提案しているとします。
「社長、今回の戦略のキモは、既存顧客とのシナジーを最大化しつつ、新規顧客のコンバージョンを上げることです。……」
社長「(心の声)しなじー……? こんばーじょん……?」
若手従業員が話している言葉のほとんどが、社長の頭の上を素通りしていきます。当人はカタカナ用語を駆使して「仕事ができる自分」を演出しようとしているのかもしれません。しかし、その結果生まれるのは、尊敬ではなく、「何を言っているのかわからない」という困惑と、「バカにされているかも……」という不信感だけです。
では、説明がうまい人は、同じ場面でどう話すでしょうか。
「社長、今回の新しい取り組みで一番大切なのは、昔からのお得意様にもっと喜んでいただきながら、新しいお客様にもお店のファンになってもらうことです。いわば『相乗効果』ですね」
話している内容は、先ほどの従業員とほとんど同じです。しかし、社長の理解度はまったく違うはずです。後者の説明が心地良く頭に入ってくるのは、後者が「相手が知っている言葉」「相手がイメージできる言葉」、つまり「共通の言葉」を選んで話しているからです。
説明がうまい人は、自分の知識をひけらかしません。頭においているのはたった一つ、「どうすれば、自分の頭の中にある考えを、相手の頭の中に、そっくりそのまま届けられるか」です。
難しい言葉に「翻訳」が必要な理由
なぜ、私たちは無意識のうちに難しい言葉を使ってしまうのでしょうか。
それは、自分たちが日常的に使っている言葉を、相手も当然知っているだろうと思い込んでしまう「知識の呪縛」(Heath, 2007)に囚われているからです。
しかし、あなたが医者なら、患者は医学用語を知らないかもしれません。あなたがITエンジニアなら、家族はプログラミング言語を知らないでしょう。そして、あなたが上司なら、部下は社内の略語や業界の慣習を知らない可能性があります。
説明がうまい人は、この「知識の呪縛」から自由です。常に「もし自分が、この言葉を生まれて初めて聞くとしたら?」という視点を頭においています。だからこそ、難しい言葉を、誰にでもわかる簡単な言葉へと「翻訳」する準備を怠らないのです。
ここで一度、「スキーマ」の話を用いて、「なぜ知らないことは聞いてもらえないのか」を簡単に見ていきたいと思います。
認知心理学に「スキーマ理論」(Bartlett, 1932)というものがあります。スキーマとは、私たちの頭の中にある知識の枠組みのことです。相手の頭の中に、その情報をしまう棚がなければ、捨てられてしまうように、聞き手が知らない言葉を聞いたとき、関連するスキーマが存在しない場合、脳が情報を処理できません。
コミュニケーションにおける最大の壁は、実はこの「枠組み」です。この枠組み(スキーマ)に入っていない概念や言葉は、理解してもらえないのです。
説明がうまい人は、このスキーマを超える方法を自然と使っています。

