日本車メーカーの販売シェアが高いタイでは、中国製EVがシェアを侵食する状況が続いている。日本車は中国製EVに負けてしまうのか。野村総合研究所タイの自動車アナリスト・山本肇さんは「メディアは『中国製EV勝利』と報じるが、中国メーカーにはかなわない車種が日本にはある」という――。(聞き手・構成=ノンフィクション作家・野地秩嘉)
タイ・バンコクのカオサンロード
写真=iStock.com/Iacob MADACI
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本当に日本車は追い込まれているのか?

12月4日の読売新聞オンラインには「東南アジアで日本車のシェア急落」と書いてあった。

「東南アジアで、日本車の販売シェア(占有率)が低下している。中国メーカーが現地生産に乗り出して電気自動車(EV)の販売攻勢を強めており、日本メーカーによるタイでの生産縮小が相次いでいる。

(中略)東南アジアの2割近くの市場があるタイで、日本勢9社の販売シェアは今年(2025年)1~10月に計69.8%となり、前年同期より6.6ポイント低下した。2010年代は8割台後半から9割だったが、23年に77.8%に急落。25年の年間シェアは7割を下回る可能性がある」

同紙の記事だけでなく、東南アジア、タイに関する日本車の情報については悲観的で悲憤慷慨調のそれが多い。

では、実際にタイ、東南アジアにおいて日本車メーカーは追い込まれているのか。わたしは2025年に3回、タイへ行った。そして、日本車メーカーの工場を視察し、中国製EVの販売店を訪ねた。さらに専門家、アナリストにも取材した。なかでも、斯界では唯一無二とされるのが野村総合研究所タイの自動車アナリスト、山本肇プリンシパルだ。山本さんは20年間、タイで自動車ビジネスの調査研究をしてきた。

中国製EVが市場を占有するのは「あり得ない」

わたしは2度、インタビューしたが、彼はこう言い切った。

「東南アジアで中国製EVが増え、日本車のシェアが落ちているのは一面の事実に過ぎない。中国製EVが市場を占有し日系メーカーを凌駕することはあり得ない。特にトヨタはその強みをまったく失っていない」

彼の奥さんはタイ人だ。タイとタイ人のことについても詳しい人である。

さて、タイの自動車をめぐる状況について基礎的なことを記しておく。

2024年、同国の自動車生産台数は146万8997台。前年比19.9%減だ。2025年の生産予測は150万台で、うち100万台が輸出向け、50万台は国内販売とされる。(ジェトロ「2024年の自動車生産台数、前年比19.9%減の約147万台」、2月6日

また、2024年から同国の自動車国内販売は低迷している。原因は国内の家計債務問題だ。

「タイの家計債務残高は年々増加しており、対GDP比で2012年第1四半期(1~3月)の72.5%から2024年第4四半期(10~12月)には88.4%まで上昇した。家計債務の上昇に伴い、消費者が自動車購入時に申請するローンの審査が厳格化されており、販売の抑制要因になっている」〔ジェトロ「自動車の内需不振を輸出が補えず(タイ)」、6月27日〕