※本稿は、毛内拡『読書する脳』(SB新書)の一部を再編集したものです。
脳は自分に都合のよい情報ばかり集めている
私たちの脳は無意識のうちに、自分にとって都合のよい情報を選び取る傾向を持っています。この現象を心理学では「確証バイアス」(認知バイアスの一種)と呼び、私たちの日常生活の中にも頻繁に表れます。これは、脳がエネルギー消費を最小限に抑えるために、すべての情報を公平に処理するのではなく、自分に都合のよい情報を優先的に処理するという省エネ戦略の一つなのです。
その典型例が「占い」です。占いを信じる人は、その結果が自分の状況や願望に合致すると、「当たった」と強く記憶に残しますが、逆に外れたことは無意識のうちに忘れてしまいます。そのため、占いが実際よりもよく当たると感じられるのです。
たとえば、お出かけ前の占いコーナーで「今日のラッキーカラーは赤です」と言われると、赤いものに注意が集まり、赤いものを無意識に探してしまいます。その結果、「なんだか今日は赤いものをたくさん見たな」「やっぱりあの占いは当たってる!」というふうに考えてしまいがちです。
しかし実際には、意識的にせよ無意識的にせよ、他ならぬあなた自身が赤色に注意を向けていたに過ぎません。
占いや性格診断に利用されている“錯覚”
最近流行りの性格診断も同様です。性格診断は、多くの人がつい「自分にぴったり」と感じるような曖昧で一般的な言葉やフレーズを用いて作られています。そのため、「確かに自分はこういうタイプだ!」と思い込んでしまうことがよくあります。こうした現象は心理学で「バーナム効果(フォアラー効果)」と呼ばれています。つまり、誰にでも当てはまるような曖昧な表現を、自分だけに当てはまる具体的な特性であるかのように解釈してしまう心理的な傾向のことです。
このように占いも性格診断も、このバーナム効果を巧みに利用することで、「当たっている!」という錯覚を生み出しているのです。後出しジャンケンのようなものですね。
こうした脳のバイアスは、読書という知的な活動の中にもよく見られます。私たちは自分の意見や考え方を補強してくれる部分に対しては自然と注意が向き、熱心に読み込む一方、異なる視点や批判的な情報からは無意識に目をそらしてしまいます。これはたとえばGoogle検索においても同様で、検索結果の中から自分の意見に合致するページだけを選択してしまった経験はないでしょうか?
近年急速に普及した生成AI(ChatGPTなど)も同じように、私たちの質問や好みに忖度した情報を提示する傾向があるため、気づかないうちに確証バイアスが強化され、視野がどんどん狭まってしまう可能性が高いです。

