日々忙しくてなかなか本を読む時間がないとき、紙とデジタル機器のどちらで読書したほうが効率的なのだろうか。脳神経科学者の毛内拡氏は「情報が氾濫する時代だからこそ、読書するツール選びが非常に重要。研究結果から、紙の本で読んだほうがよい内容やジャンルが導き出されている」という――。

※本稿は、毛内拡『読書する脳』(SB新書)の一部を再編集したものです。

デジタルタブレットを使用する人
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デジタル時代に低下しがちな「読書の効用」

現代のビジネスパーソンは、スマートフォンからの絶え間ない通知やメール、SNSのチェックに追われ、脳が常に何かを処理し続けなければならない情報過多の時代を生きています。このような環境では、触れる情報すべてを次々とインプットしようとすることはむしろ混乱を招き、重要な情報を見落としてしまうリスクがあります。したがって、現代人には「得られる情報の量」ではなく、「情報の質を見極める力(デジタルリテラシー)」が強く求められているのです。

この「情報選択力」を養う上で、紙媒体による読書の重要性が、デジタル時代において改めて見直されるべきだと私は思います。

皆さん自身がおそらく実感されているように、デジタルデバイスを用いた情報消費では、得られる情報が断片的かつ高速になり、深い思考や知識の定着が阻害される可能性が高いです。これにより、読書が本来与えてくれるはずの「深い知識習得」や「思考力の涵養かんよう」といった価値が、表面的で即時的なものに置き換えられてしまいやすいのです。

「紙の本」によって得られる“体験”

情報が洪水のように押し寄せる今だからこそ、本当に大切なのは「質の高い情報を深く味わう力」。その力を鍛える最強のツールが、実は紙の本なのです。

紙媒体で味わえる「ページを繰るドキドキ感」や「指先で紙の質感を確かめる楽しさ」は、デジタル端末では得ることが難しいと感じる人も少なくないのではないでしょうか。

また紙の本で読むと、「あの話、確か本の真ん中あたりで読んだ気がする」「重要な部分は右ページの下にあったな」など、内容とページの位置が自然と頭に残ります。付箋を貼った場所や、折り目のついたページ、インクの匂いや手触りまで、記憶と結びつく「手がかり」をたくさん作れるのは紙の本ならではです。

そしてこの、紙媒体で五感をフル活用して本と向き合う「没入体験」こそが、実は内容の深い理解や記憶の定着を助けてくれることが、脳科学的にも明らかになっているのです。