わき上がる“アドバイス欲”をおさえるためのレッスン
――「Not Knowing」のスタンスの大切さは理解できました。ただ、そうは言っても目の前で「明らかに自分のやり方と違うこと」をしている人を見ていると、やはり「なんとか助言してあげたい」と思ってしまいます。それをやめるためには、どうすればいいのでしょうか。
小倉:これはもう「訓練」しかありません。やるべきは、相手の行動の裏にある「肯定的な意図」を見出すこと。
どんなに下手くそで、間違ったやり方でも、わざと失敗している人は一人もいないはずです。どんな最悪の手にも「本当はこうしたい」という肯定的な意図が隠れている。例えば、大失敗した部下に対して、「本当はこういう結果になるように、わざわざ工夫してくれたんですね。たまたま逆の結果になったけど、本当はあなたはこうしたかったのでは?」と、その意図を探ってみる。
――それは……心に余裕がない限り、なかなか難しいですね。
小倉:その通りです。だから、これは「技術」として認識し、素振りのように練習するしかありません。僕は研修で「1日のうちに腹が立つこと、アドバイスしたくなることが10回あったら、その都度『背後に隠れた肯定的な意図はなんだろう?』と考えてみてください」と参加者に伝えています。
それを365日やれば、3650回の「肯定的な意図」を見出せます。そうすると、脳の中にポジティブな回路ができるんです。そもそも人間は危険察知の目的でネガティブな感情を重視するように脳の回路ができています。ディズニーの映画『インサイド・ヘッド』はそれをうまく表現していますよね(編注:感情を擬人化したキャラクター5体のうち4体がネガティブな感情)。だから、脳の回路を変えるレベルで訓練する必要がある。柔道選手が相手と組んだら勝手に体が動いて投げ技が繰り出されるように。
――人を思い通りに動かせるような「ウルトラC(裏技)」はない、と。でも、「アドバイスしない姿勢」を技術として習得できるのだと知って、救われる人も多いのではないかと思います。
小倉:一朝一夕には難しいですが、誰しもコミュニケーションのスタイルは変えられると思っています。そもそも簡単にすぐできるようになる裏技があるとしたら、僕が知りたいですよ(笑)。
アドバイスが通用しない「厳しい時代」をどう生きるか
――先ほど「答えが分かっている仕事はもう少ない」とおっしゃいましたが、すでにある答えを探し出したり整理したりするのはAIの得意分野だと思いますし、「他人にアドバイスすれば回せる仕事が少なくなっている」とも言えそうですよね。
小倉:そうですね。「緑じゃなくて赤のボタンを押してください」といった指示が有効なマニュアルワーカーの仕事は今後どんどん減っていくでしょうね。これから人間がやらなければならないのは、上司のやり方を真似してもうまくいくとは限らない、絶対的な正解がない「オーダーメイド」な仕事です。
――そう考えると、部下の側も「気軽に上司にアドバイスを求めてはいけない」「上司が何とかしてくれると思ってはいけない」という心構えが重要かもしれませんね。
小倉:おっしゃる通りですね。誰も叱らないし、誰も主体的に答えを教えてくれない、という意味では、部下にとってもある意味「厳しい」時代になってきたとも言えそうです。
だから、職種や業種、ポジションを問わず、今求められるのは「自力で変わろうとする」姿勢、その一点に尽きるのだと思います。
取材・文:山田井ユウキ、はてな編集部 写真:小野奈那子 編集:はてな編集部 制作:マイナビ転職





