子どもの読書時間はどのくらいが最適なのか。教育心理学・認知科学者の猪原敬介さんは「読書の効果は、読書をしている最中だけに生じるものではない。ゆえに、読書で大事なのは時間ではなく質だ」という――。(第3回)

※本稿は、猪原敬介『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』(日経BP)の一部を再編集したものです。

横になって本を読む女の子
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです

5分だけでも本を開くことが学力を左右する

スモールインプット現象とは、各種調査などで見られる、「読書をまったくしない(0分)」と、「ゼロではなく、少しはやる(例えば、5分や30分)」で大きな違いが得られる現象のことでした。例えば、小学6年生の全国学力テストにおいて、読書時間が「0分」と「10分以上、30分より少ない」では、平均正答率が7ポイントくらい違います(図表1)。

この7ポイントの違いの中には、「特性・環境」による違いと、純粋な「活動」による違いの両方が含まれています。読書時間が「0分」の子どもたちは、全体的傾向としては「物語が好きな程度」「知的好奇心の強さ」「読書をすることが自分にとって大切なのだという実感」といった特性が低い傾向があります。

さらに、子どもの読書時間が「0分」の家庭では「家庭蔵書数」といった「環境」面も豊かではない傾向があります。

これらの特性や環境の違いが、読書だけでなく、学力にも影響することは想像に難くないでしょう。例えば、「勉強をして新しいことを学ぶことが好き」といった特性や「保護者が勉強に対して大きな価値づけをしている」という環境が、学力の向上につながる、といった具合です。これが、読書に関わる特性や環境が、学力にも影響するメカニズム(の一部)です。

たくさん読む必要はないといえる科学的根拠

「0分」「10分以上、30分より少ない」「1時間以上、2時間より少ない」と読書時間を並べると、そうした特性の強さや環境の豊かさは、

・「1時間以上、2時間より少ない」>「10分以上、30分より少ない」>「0分」

となっていますが、スモールインプット現象の観点から考えると、その差がもたらす影響力の大きさは、

・「0分」と「10分以上、30分より少ない」の間では大きい
・「10分以上、30分より少ない」と「1時間以上、2時間より少ない」の間では小さい

となっているため、「0分」と「10分以上、30分より少ない」の間で学力などのスコア差が大きくなるスモールインプット現象が生じるというわけです。

こう書くと、読書活動そのものには効果がないかのように聞こえるかもしれません。しかし実際にはそうではありません。1回1回の活動がもたらす効果は確かに小さく、実感しにくいかもしれませんが、きちんと実在します。

例えば、本を読んでいて知らない単語に出合った経験は誰にでもあると思います。そのとき、文脈からその単語の意味を正しく推測できれば、それで1回の語彙学習が成立したことになります。こうした学習を「偶発的語彙学習」と呼び、多くの心理学実験がその効果を確かめています。(※)

(※)Swanborn, M. S. L., & de Glopper, K.(1999). Incidental word learning while reading: a meta-analysis. Review of Educational Research, 69, 261-285.