――私たち一般の人間が真似するのは難しいということですね。

小倉:松下幸之助さんや稲盛和夫さんのような伝説的な経営者の伝記を読むと、部下に対する厳しいマネジメントの様子が紹介されていますが、あれは彼らが部下からリスペクトされていたからこそ成り立つ話であって。僕ら一般の人間はたいてい尊敬されないし、そもそも尊敬は相手に強制できません。

――そういえば以前、ある漫画家の方にコミュニケーションというテーマでお話を伺った際、「相手に対する共感があって初めて(相手の)ガードがほぐれて、助言だとか提案の言葉も入っていくようになる」とおっしゃっていました。相手に共感すればアドバイスしやすくなる、という指摘には説得力も感じますが、いかがでしょうか。

小倉:間違いではないと思います。「この人の話を聞きたい」と相手に思ってもらえる条件の一つが共感なので。ただ、あくまで(共感は)条件の一つに過ぎません(編注:アメリカの心理学者、カール・ロジャーズは「傾聴に必要な3つの条件」として「共感的理解」「無条件の肯定的関心(あらゆることをすべて肯定すること)」「自己一致(嘘がないこと)」を提唱している)

もっとも大切なのは相手を誘導しようという作為がないこと、つまり嘘がないことだと思っていて。その意味で「ラポール(信頼関係)を作って教える」という姿勢にはやや誘導的なイメージもあるので、個人的にあまり好きではありません。後ほどお話ししますが、やはり「Not Knowing(知らない)」のスタンスを前提として、相手とコミュニケーションを取るべきでしょう。

――とはいえ、目の前で間違った行動をしている人を見ると、アドバイスしたくなってしまうのが人情だと思います。なぜ人は、他人にアドバイスをしたくなってしまうのでしょうか。

小倉:理由は二つで「劣等感(ネガティブ)の解消」と「優越感(ポジティブ)の創造」です。まず、人は自分と違うやり方や意見を目の前で堂々と披露されると「劣等感」を刺激されるんです。あたかも自分が否定されたかのように感じてしまう。

SNSなどでも、赤の他人に厳しく遠慮のない意見を投げかけている場面をよく見かけますよね。あれも自分とは異なる意見を発表する人たちに対して、自分はそれを読むだけのイチ読者である、という劣等の地位にいることに耐えられず、何か言わずにはいられないわけです。そして、アドバイスをすることで、今度は「優越感」を手に入れられる。自分は役に立っている、立派な人間だと感じられる。この劣等感(ネガティブ)の解消と優越感(ポジティブ)の創造というダブルの報酬があるから、アドバイスは止められないんです。

――アドバイスと聞くと社会的な営みという印象もありますが、実は「本能」に近い行動なんですね。

小倉:そうですね。「相手のためを思って」というのは、後から付け足した“もっともらしい正当化の理屈”に過ぎません。本質的には、不愉快なものを排除したい、それによって優越感を得たいという動機が根底にあることが多いでしょうね。

ここまでのまとめ アドバイスの99%は逆効果 アドバイスは人間の本能に根ざした行為 アドバイスしたくなる理由は劣等感の解消と優越感の獲得
画像提供=MEETS CAREER by マイナビ転職