腰を据えて本と向き合ったのだから、中身を自分の血肉に変えたい――そう考える人は多いだろう。読書内容を脳に定着させるノート術の極意を、達人が教える。

「読みっぱなし」は読んでいないのと同じ

読書をしても、読んだときの気づきや要点を忘れてしまう。本を読めば読むほど、前に読んだ本の中身が、指の間から砂がこぼれるように頭から抜け落ちていってしまう――せっかくの読書体験がもったいないと感じる人も多いのではないでしょうか。

どんなに素晴らしい本であっても、ただ一度読んだだけでは、その内容は記憶からこぼれ落ちてしまいます。私にとって「名著」とは、読んだ後に「世界の見え方がガラッと変わる本」です。たとえば、中国の皇帝に関する本を読んで、それまでニュースで見ていた中国に対する考え方が根本から変わる、といった体験です。そういう本に出合えたときの喜びは格別ですが、そんな強烈な体験でさえ、時とともに薄れていってしまうのが現実です。そう考えると、読んだだけの「読みっぱなし」では、結局のところ中身を忘れてしまいます。それは、読んでいないのと同じことになってしまいます。だからこそ私は、読んだ本の記録をノートにつける。それを日常的に続けているのです。

私が読書ノートをつける目的は、一般的に考えられているような「一冊の内容を整理してまとめるため」ではありません。読書ノートをあとから丹念に読み返して、本の内容を頭に詰め込むような使い方はしません。目的はノートづくりを「する」ことそのものです。なぜなら、「書く=つくる」という行為自体が、読んだ内容を記憶に定着させるうえで、最も効果を発揮するからです。これは、「手を動かすと頭に残る」という、非常に単純な原理に基づいています。たとえば、スマホで紙面の写真を撮っておけば、後から見返すのも簡単です。しかし、その方法は簡単すぎて、なかなか頭に残りません。手書きでメモを残したり、記事のコピーをハサミで切り、糊で貼るといったアナログな手間をかける。その面倒なプロセスを経ることで、脳は「重要な情報」として認識し、記憶にタグ付けしてくれます。一冊の内容を要約するのが読書ノートの目的になってしまうと、内容の整理に必死になってしまい、読書の楽しさを見失いがちです。そして何より、面倒だから続かない。そうではなく、「手を動かす」という過程そのものを重視するのです。

私が読書で目指す最終的なゴールは「読んだ本を自分のものにする」ことです。この状態は「検索せずに思い出せる」「自分の言葉で引用できる」ことを意味します。いちいち本棚やインターネットで調べなくても、「あの本には、こんなことが書いてあったな」と、ふとした瞬間に自分の頭の中からすっと取り出せる。あるいは、通学風景を眺めているときに、突然「あの本の、あのへんを読み返してみたい」とピンとくる。そして、実際にそのページを開いたら、まさに思い描いた通りのことが書いてある。情報をただ知っているだけでなく、いつでもどこでも自由に引き出し、日常風景で活用できる。その状態に到達して初めて、本の内容が本当に「自分のものになった」と言えると、私は考えています。

一冊の本を読み終えたら、読書体験をノートに封じ込めます。本の内容を丸ごと記憶しておくのは不可能です。だからこそ、読書ノートによって、未来の自分が「思い出すための手がかり(フック)」をつくっておくのです。その鍵となるのが、本と自分との「関係性」を記録することです。いつ頃読んだのか。旅先のどの場所で読んだのか。どこの書店で、あるいは古書店の100円棚でたまたま見つけたのか。そうした、自分とその本だけの固有の物語こそが、記憶を呼び覚ますための最も強力なフックになります。

【図表】「読んで感じたこと」を書くのではなく、本そのものをノートに残す

読んだ日付よりも買った場所を書く理由

私のノートは、いわゆる読書ノートの要素だけでなく、日記や旅の記録、食べたものの記録までざっくばらんに記載されています。「何月何日にこの本を読んだ」と本のことだけを記録しても、かえって思い出しにくいからです。それよりも、旅日記の中にぽんと本の帯が貼ってあれば、「ああ、この本はあの旅の途中で、東京駅で買ったものだ」と、背景となる記憶と結びついて、鮮明に思い出すことができます。さらに、一見無関係に見える情報が並んでいることで、予期せぬ「情報同士の意外なつながり」が生まれることもあります。たとえば、以前スクラップした少子高齢化の記事が、最近読んだ「婚活」に関する本の読書ノートを書くヒントになり、本の内容をより深く理解できるといった具合です。

ですから、みなさんがすぐにでも始められる具体的な方法として、まずは「本の帯をノートに貼る」ことをお勧めします。帯は、本棚に入れておくと案外ぐちゃぐちゃになって邪魔なものです。どうせなら、捨ててしまう前にノートに貼ってしまってもいいのではないでしょうか。帯には、本の魅力を体現するために工夫されたデザインや印象的な言葉が記されています。その紙の質感も含めて、後から見返したときに「ああ、こんな本を読んだな」という記憶を呼び覚ます、非常に優れた視覚的な手がかりになるのです。