新米が出ても、コメの価格は下がらない。「JAが悪い」説は本当なのか。元JA職員で農家のSITO.さんは「JAは農家の協同組合であると同時に、特に地方では一般の人にとっても重要な役割を果たしている。まず、どんな組織なのかを知るべきだ」という――。
JA宮崎中央会などが入るビル=2023年10月30日、宮崎市
写真提供=共同通信社
JA宮崎中央会などが入るビル=2023年10月30日、宮崎市

高止まりする新米の価格は適正か

新米の時期になっても米価は高いままです。こうして価格が高止まりしている理由は、何なのでしょうか。さまざまな角度から検証していきましょう。

生産側から見ると、2023年から今年にかけての猛暑・干ばつ、台風などの局所的被害によって、一部のコメの品質(等級)や収量が想定を下回りました。そのため、供給がショートし、需要を下回ったことが価格の高止まりにつながったのです。

流通に目を向けると、買い取りを巡る業者間競争が価格を押し上げ、小売価格を跳ね上げています。また、玄米から白米にする「精米工程」でのタイムラグや流通上の偏在があり、店頭の在庫と現場需給がすぐに均衡しないというボトルネックもあります。

消費側から見ると、まず外食需要やインバウンド需要の増加、加工用(パックごはん等)や輸出の増加が見られ、米の需要が想定を上回りました。

そのうえメディア報道やSNSでの「品薄」情報が業者や消費者の心理を煽り、買い占めやまとめ買いが発生した時期もありました。こうした“需要の先食い”が価格を押し上げる一因となったのは間違いありません。

「悪の組織」のようにいわれるJA

このように米価高騰は様々な要因が絡み合っているため、何をもって「適正価格」とするかはとても難しいことです。

まして農業資材や機械の価格も高騰している今、生産者としては経営持続可能な価格が維持されることを期待します。確かに一昨年までの米価は安すぎました。一方、消費者としては物価高騰の中で少しでも安い価格を求めるでしょう。どちらも当然です。ただし、現在の値上がりの中には適正値への「回復」の部分と、それを超過する「異常」な部分があると考えなければなりません。

前述の内容を考えれば「コメが高いのは○○のせいだ」と安易に決めつけることはできないはずなのですが、しばしばその槍玉に挙げられる組織があります。それが有名なJAです。「JAが生産者と流通業者の間に入って暴利を貪っている」という「JA中抜き論」はSNSで瞬く間に拡散され、広く誤解を招くこととなりました。

他にも「JAがコメを出し渋って値段を吊り上げている」とか「JAが海外にコメを売り飛ばしている」など根も歯もないデマが蔓延する事態に。これら事実に基づかない誤情報は、米価高騰に際してさらに消費者の不安を煽ったに違いありません。

【図表】米輸出の誤解と実際
筆者提供