隠れた争点だった「防災と安全」

また、今回は隠れた争点として「防災と安全」というテーマが有権者に刺さることがわかっています。それは2024年元日に発生した能登半島地震とその後の豪雨・洪水被害に対する直接の支援を岸田文雄政権でやり切って相応の高評価を得ているにもかかわらず、このあたりの発言をうまく主張できた自民党候補が少なかったのは残念なことです。また、これらの防災の問題は、実は能登だけの問題ではなく、常に大型地震に怯える首都圏ほか都市部の有権者でも関心上位に入っていたことから考えても、安心して暮らせる政策を実現する与党という主張は繰り返し行わなければならなかったでしょう。

令和6年能登半島地震に関する非常災害対策本部会議に参加する岸田文雄首相(※肩書は当時)(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

突き詰めると、確かに立憲が設定した「政治とカネ」は大事な話だけど、それへの反省は述べたうえで、しかし政策面で国民・有権者の生活をどれだけ良くできるのかという主張を行う必要があったのは間違いないのです。

そして、今回複数の出口調査では、限られた投票所ではありますが「政治とカネの問題はあなたの投票に影響しましたか」という問いと、投票先候補と比例投票先政党名を聞いています。ここでは、「政治とカネ」について強く関心を持つのは所得の低い高齢層と一部勤労層が中心で、言い方は悪いですがこの問題が無くても自民党や公明党には投票しなさそうな有権者が主体であったことは注目するべきです。これは、結果的に「比例では、立憲民主党への得票はほとんど増えなかった」ということと符合しています。

「政治とカネ」を抜きにしても、支持を失っている

これらの投票状況の背景には、政治とカネの問題を争点にされる前から、自由民主党自体は中期的に支持層が融解し、徐々に支持を失ってきているトレンドにあることは理解しておくべきです。言い換えれば、有権者からすれば「自民党に投票しなければならない」動機がなくなりつつあり、いまや自民党候補に投票する理由を喪失しているのです。自民党で今回のような逆風でも盤石な選挙戦を通して問題なく当選しているのは世襲ほか過去のつながりからしっかりと根を張っているか、地元での運動量が抜群に多い候補ばかりであることは考慮に入れておく必要があります。

今回自民党のやらかしの巻き添えを食う形で重要な選挙区で多くの議席を失うことになってしまった公明党には、自民党からすると多大なご迷惑をおかけした形になったかと思います。特に、埼玉14区では公明党代表に選任されたばかりの石井啓一さんが、また大阪では佐藤茂樹さん、国重徹さん、伊佐進一さん、山本香苗さんと全滅を喫してしまい、非常に大事な政治家を(一時的にであれ)失ってしまったのは痛恨の極みと言えます。