鶴の由来は「水流」からきている

「鶴」は縁起の良い美しい鳥なので、このように多彩なバリエーションで活用されてきたのだが、その裏には洪水に見舞われる影の歴史が秘められている。

皆さんの知り合いに「水流さん」もしくは「都留さん」という人がいないだろうか。「都留」は当て字なので、もともとは「水流」と考えればいい。「水流さん」「都留さん」はその多くが九州出身のはずだ。

「鶴」という美しい地名の多くが実は「水流」に由来している。「ツル」という所は、川が鶴の首のように細長く流れている場所を指している。言い換えれば川が増水すればすぐ洪水に見舞われる湿地帯を意味しているということである。

例えば東京都新宿区の早稲田鶴巻町は、元禄年間に小石川村の田で鶴の放し飼いをしていて、それが早稲田村にも飛来したことで鶴番人を置いたことによるとも言われるが、ここを流れていた蟹川が「ツル」のようであったことに由来するとも言われる。

名古屋市の昭和区に「鶴舞」という町名がある。そこにあるJRと市営地下鉄鶴舞線の「鶴舞駅」は「つるまい」と読んでいる。ところが鶴舞駅を降りた目の前の公園は「鶴舞つるま公園」である。近くの「鶴舞小学校」も「鶴舞中央図書館」も「つるま」である。

この混乱は、もともとこの地にあった「ツルマ」という字名に「鶴舞」という漢字を当てたことによるものだ。低湿地帯だった当地には精進川という川が流れていた。「ツルマ」は「水流間」であったのである。1905(明治38)年に始まった公園造成の工事は1909(明治32)年に完成し、町名は「鶴舞」としたが、公園名は「ツルマ」という字名を尊重して「鶴舞公園」としたのであった。

「鶴の湯=鶴が入っていた温泉」は正しいのか

秋田県仙北市の乳頭温泉郷は個人的に全国でもトップに推奨したい温泉である。乳頭温泉とは乳頭山(1478メートル)の麓にあることからつけられた名前だが、その「乳頭山」とは秋田県側から見た山容が少女の乳首(乳頭)に似ているところに由来する。乳頭温泉には黒湯、孫六、蟹場など7つの個性的な温泉が点在しているが、その代表格と言えば、やはり「鶴の湯」である。

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鶴の湯の入り口に立ってみると、左手に陣屋と呼ばれる建物が続いている。まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような感覚に陥る。幅2メートルほどの川を越えると秘湯の魅力満点の混浴の露天風呂がある。この露天風呂は湯守の佐藤和志さんが湯小屋を修理していた時、偶然60度の源泉を発見してそのまま露天風呂にしたのだそうだ。

乳白色の露天風呂に身を沈めると、玉砂利の下からやや熱めの湯が直に湧いてくる。全国の温泉地を歩いているが、このような露天風呂は極めて稀である。

「鶴の湯」の由来として、その昔マタギの勘助なる人物が、鶴が温泉で傷を癒やしているのを見つけたからという伝承があるが、それは後世に作り上げた話と見ていいだろう。私が鶴の湯を知ってからすでに30年が経つが、この「鶴」は「水流」だと考えている。