そもそも鶴が好む地形はリスクがある
鶴の湯温泉の真ん中を流れる「湯の沢」は急流で水量も豊富、いつ洪水が起こっても不思議ではない。2006(平成18)年2月10日午前11時過ぎ、鶴の湯の裏山で雪崩が発生し、1名が死亡、16名が負傷するという惨事が起こった。これは洪水ではないが、湯の沢を目指して雪崩が集中した点では洪水に準ずる災害だということができる。
「水流」という地名は九州でも宮崎県に集中している。宮崎市大塚町水流、えびの市水流、都城市上水流町などだが、いずれも河川の中流域に位置し、まさに「水が流れる」場所である。
山梨県の「都留市」も同様な背景を持っている。都留市は1954(昭和29)年、町村合併によって成立したが、「都留」という市名は古来あった「都留郡」に由来する。この「都留」という地名は桂川流域が富士山の裾野を「蔓」のように流れていることに由来するとされる。このように考えてくると、全国に散らばっている「鶴」地名の多くは「鶴」には関係なく、「水流つまり「河川の流れ」に関係しており、水害に関係した災害地名であることがわかる。
さらに「鶴」に関連した地名として「鶴田」にも注目してみたい。秋田県横手市に「鶴田」、青森県北津軽郡に「鶴田町」、宮城県大崎市に「鶴田」、福島県伊達市に「鶴田」、熊本県人吉市に「鶴田町」、鹿児島県さつま町に「鶴田」などがある。これらの地域は小さな河川が「水流」のように流れ込んでいる低湿地帯であると推測される。
鶴はこのような低湿地帯を好んで移住し棲息するが故に、「鶴」と「田」が結びついたのであろう。
集中豪雨による洪水被害のすさまじさ
ここ数年の河川の氾濫・洪水はすさまじいものがある。2019(令和元)年秋の台風19号から翌年7月に九州を襲った集中豪雨を見ると、次の3つの河川による被害が際立っている。
長野県を流れる千曲川は日本一の長さを誇る信濃川の上流の長野県内を流れる部分の名称である。全長367キロのうち、千曲川の長さは214キロ、新潟県に入って新潟市で海に注ぐまでの信濃川と呼ばれる部分の長さは153キロとなっている。214キロという長さは天竜川を超える全国九位の河川となるわけで、それだけでも千曲川が大河であることがイメージされよう。
その千曲川を2019(令和元)年10、台風19号が襲った。長野市穂保で千曲川左岸が約70メートルにわたって決壊し、長野新幹線車両センターなど広範囲に被害が及んだことはまだ記憶に新しい。
福島、宮城両県を流れる阿武隈川は阿武隈山系を水源とし仙台平野に至る239キロの長さを誇る、東北地方では北上川に次ぐ大河である。2019(令和元)年10月の台風19号で、この阿武隈川も各地で堤防が決壊して大きな被害をもたらした。とりわけ宮城県丸森町では町の中心部がほぼ全域にわたって浸水した。