認知症は2倍、発達障害は3倍に増加

その精神医療の対象となる人は、実際、どれぐらい増えているでしょうか。

精神科を標榜する診療所の推移を確かめると(図表1)、1996年~2020年の24年間で2倍以上に増えています。

出典=厚生労働省「医療施設調査

さらに厚労省「患者調査」も確認してみましょう(図表2)。令和2年に大きく数が増えているのは集計方法が変わった影響もあるので、そこを差し引いてご覧になってください。

出典=厚生労働省「患者調査

最初に目につくのは認知症の著しい増加ですが、これは、日本人の平均寿命が延びたために起こった変化です。精神医療の近年のトピックである発達障害は、このグラフのなかで「その他の精神及び行動の障害」に含まれ、その疾患の特性もあって表のなかでは目立ちませんが、それでも2002年~2017年の15年間で約3倍に増えています(*3)

(*3)平成29年までの患者統計では、通院間隔が1カ月以内の患者だけが計上されていて、その障害の性質から通院間隔が長めであることも多い発達障害圏の患者は表から漏れやすくなっています。そのことを示すように、通院間隔が99日以内に改められた令和2年の統計では、他の精神疾患の増加割合と比較して、このカテゴリーの増加割合は2倍以上と大きく増えています。また、この患者調査では発達障害に該当していても統合失調症やうつ病などが主病名とみなされている患者の場合、そちらの病名でカウントされている可能性がある点にも留意が必要です。

軽度のパニック症や双極症も治療対象に

同じく増加率が高いのは、うつ病や双極症(双極性障害、躁うつ病とも)が含まれる気分障害のカテゴリー、不安症やストレス関連障害が含まれるカテゴリーです。これらのうち比較的軽度のものは、かつては精神科を受診することがあまりありませんでした。

たとえば不安症のなかにはパニック症や社交不安症などが含まれますが、これらは昔は今日ほど広く診断されても、治療されてもいませんでした(*4)

双極症も、以前は激しい興奮や誇大妄想を伴った患者さん(以下、患者と表記)が専らそのように診断されていたものが、双極症II型をはじめ、20世紀より広範囲の患者が診断と治療の対象とみなされるようになっています(*5)

(*4)DSMなどの国際的な診断基準が定着する前の日本でも、これらが不安神経症や赤面恐怖といった名前で診断されることはありましたが、そもそも精神科心療内科のクリニック数も総受診者数も今よりずっと少なかったのでした。また、副作用と依存性の少ない不安症の第一選択薬でもあるSSRIが日本に導入されたのは1999年です。
(*5)双極症の診断範囲の拡張については、アキスカルの話をまず参照。Akiskal HS, Pinto O: The evolving bipolar spectrum. Prototype I, II, III, and IV. Psychiatr Clin North Am. 22(3): 517–534, 1999