手厚い保護と患者の自由の両立は難しい
第二に、精神医療や福祉はどこまで患者の自由に貢献しているでしょうか。自由な行動の大前提として健全なメンタルヘルスが必要なのは確かで、その点において精神医療や福祉は重要な仕事をしています。
他方、精神科病院に長期入院になる患者、退院しても限定的な社会復帰に留まらざるを得ない患者も少なくありません。拙著『人間はどこまで家畜か』でも書きましたが、日本の精神医療は米英に比べて手厚い保護を実現している反面、患者の選択に対する医療・福祉・家族・行政による介入も避けられません。
米英ではホームレスや受刑者になっていそうな患者もしっかり保護・治療されますが、保護し介入する側の考える「あなたにふさわしい仕事、あなたにふさわしい生活」に沿って退院支援や生活支援がなされる一面も否定できません。
治療や支援に忍び寄る、排除の論理
第三に、そうした患者の社会復帰は、どこまで真正な社会復帰たり得ているでしょうか。
2023年の新聞報道によれば、障害者雇用を代行するビジネス、つまり障害者雇用の法定上の規則を充たしながら、本来の職場とは別の場所で障害者を雇って働かせるビジネスが急増しているといいます(*11)。
もし、障害者雇用や障碍者支援を実践している体裁を繕いつつ、それらを隠れ蓑にした排除の論理が働いているとしたら、それは発達障害支援法の理念を踏みにじるものではないでしょうか。
医療や福祉が充実し、ひとりひとりの患者に合わせた支援が行われるのは大切なことです。ですが私たちは人間であって、ただ飼育されるばかりの家畜でも、ただ選別されるばかりの農作物でもありません。
ますます社会が高度化し、医療や福祉のニーズが高まっていくなかで、いかにひとりひとりの自由を尊重し、インクルーシブな体制を目指していくかが問われているよう思います。
(*11)47NEWS「『障害者は喜んで農園で働いている』はずが…国会がNGを出した障害者雇用“代行”ビジネス 大手有名企業を含め800社が利用」(2023年1月28日)