親の「地盤」を引き継げば「カバン」も引き継げる仕組み
自民党の場合、「政党支部」と言っても結局は議員個人の持ち物になっていることの表れだ。死亡した当日に妻が代表になったことがそれを端的に示している。今でも企業献金は政党や政党が指定する政治資金団体に対してしか行うことができない。自民党の選挙区支部は「政党」という建前なので、そこで企業献金を受け取ることができる。また、政党助成金などもこの政党支部に分配される。
個人では受け取れない企業献金の受け皿として「政党支部」は使われているが、実際は政党の下部組織ではなく、政治家個人のものと自民党では理解されてきた。だから親の議員が引退して選挙の「地盤」を引き継ぐと、政党支部の「代表」を交代して多額の政治資金、つまり「カバン」を引き継ぐことができる。もちろん親の「看板」も使えるから、2世3世議員が自民党の中心になるのは必然なのだ。
ちなみに、どんな中小企業でも、親から会社を引き継ぎ、株式などを譲り受けた場合、当然、相続税がかかる。政党支部を夫婦や親子で引き継いでも相続税はかからない。政治家でも何でもない安倍昭恵氏がすんなり代表になって資金を「相続」できたのも、自民党の「慣行」に従ったまで、ということになる。
新聞などはこの資金移動などを取り上げて批判しているものの、これがすぐに法律違反になるものではない。あくまでも「慣行」だが、それを自民党は放置し続けることになるのか。
「立候補するために2億円支払った」と参議院議員
さらに、領収書のいらないカネを生み出す自民党の「慣行」がある。参議院議員が立候補する場合、県会議員などにカネを渡すのだ。10年以上前に現職参議院議員が吐露したのは「立候補するために2億円支払った」という話だった。最近はそんな慣行は消えたのかと思ったら、現職参議院議員に聞いたところ、「今はインフレで2億円では済まない」と小声で答えた。まだ続いているようだ。
これは全国一律の慣行というよりも県ごとに違いがあるようだ。選挙に協力するにはカネがいるという話だが、選挙に近い時期にカネを渡せば買収で逮捕されるリスクがある。組織的な金銭要求だけでなく、地域でミニ集会を開いてやるから100万円出せ、と県会議員などから言われるケースもあるようだ。
参議院議員は解散がないため6年間の任期が保証されている。議員の給料だけでなく、公設秘書の3人の人件費など国から支給される経費を含めれば2億円を払っても十分にお釣りが来る、という計算なのだろうか。だが、それが有能な若者が国会議員になる道をふさいでいる。
自民党の政治とカネを巡る「悪しき慣行」はまだまだ枚挙にいとまがない。そんな慣行を打破して、近代的な政党に生まれ変わっていけるのか。岸田内閣だけでなく自民党にとっても正念場だ。