どんな人が「もしトラ」を望んでいるのか
(前編から続く)
――トランプ前大統領はラストベルト(さびついた工業地帯)の労働者の支持を得るべく、炭鉱復活などによる雇用創出をアピールしてきました。彼の政策は、アメリカで置き去りにされたラストベルトのブルーカラー層の人々に恩恵をもたらしたのでしょうか。
断じてそうは思わない。トランプ前大統領はブルーカラー層から厚い支持を得ているが、主な支持理由は経済政策ではなく、ほかの問題に対する彼のスタンスにある。
アメリカでは経済政策や外交政策をめぐって世論が分かれており、個人のアイデンティティーが依拠する文化(的価値観)にも分断がある。トランプは文化的分断を味方に付けているだけだ。経済政策も外交政策も評価できるものではない。
トランプが何より強みとしているのは文化的な問題だ。彼の「エリート批判」は大人気を博しており、(特にブルーカラー層の間で)強い共感を呼び起こす。移民を攻撃する「ナショナリズム」も一部の有権者に受ける。つまり、トランプ人気は彼の政策ゆえではなく、トランプが、ブルーカラー層に強く訴えかけるようなテーマや考え方を雄弁に語るからだ。
経済は成長しているのに、賃金は上がらなかった
――米経済は堅調で雇用も力強く、賃金上昇も目覚ましいと、日本で報じられています。米国ではコロナ禍による人手不足で、低所得層の賃上げ率が最も高くなり、40年ぶりに格差が縮小しました。とはいえ、長引くインフレに苦しむ人々も多いように見えます。
第2次世界大戦以降、アメリカでは着実に生産性が上昇してきた。そして、1980年までは、生産性とともに賃金も上がっていた。その後も生産性は上がり続けたが、下位50%の平均的な労働者の賃金は横ばいに転じた。
米経済は成長し続けているにもかかわらず、長年にわたって、下位50%の労働者は生産性上昇や経済成長の恩恵にあずかっていなかった。その恩恵は上位10%、いやトップ1%のアメリカ人が享受してきた。(トランプ支持者をはじめ)アメリカの労働者が幸福感を抱けない理由はここにある。
だがコロナ禍以降、「逼迫する労働市場」が下位50%のアメリカ人の賃金にプラスの影響を及ぼしている。つまり、人手不足のおかげで、格差が縮小したわけだ。日本でも、人手不足はプラスの効果をもたらした。日本では2010年頃から労働市場が比較的逼迫してきたが、それが政策変更につながったとみている。