アメリカでもようやく「賃上げ」が広がってきた

例えば、日本政府が「ウーマノミクス」を推進し始めた理由の一つは逼迫する労働市場にある。日本政府は労働人口を増やすべく、女性の労働参加を後押ししている。「同一労働同一賃金」などの政策は、逼迫する労働市場のなせる業だ。人手不足が政治にプラスの影響を及ぼすことは日本の例を見ればわかる。

人手不足が経済的観点からも功を奏するのは、前述したアメリカの例が示している。一方、日本では逼迫する労働市場が賃金の押し上げにつながらなかった。これは少々不可解だったが、現在、少しずつ上がっているようだ。日本でも、ようやく賃上げが本格化し始めるのではないか。

逼迫する労働市場による賃上げトレンドから最大の恩恵を受けているのは下位50%のアメリカ人だ。つまり、平均的なアメリカの労働者は人手不足のおかげで暮らし向きが良くなっている。この現象は当分続くかもしれない。これは日本の働く人々にとっても朗報だ。

経済の堅調さが支持率に反映されるには時間がかかる

――米シンクタンク「経済政策研究所(EPI)」の今年3月21日付 報告書「State of Working America(アメリカ労働情勢)」によると、2019~23年の実質賃金上昇率は、低賃金労働者が12.1%だったのに対し、高賃金労働者は0.9%です。その差に驚きました。

経済は好調だが、バイデン大統領の支持率に反映されていない。その理由として、インフレが考えられる。インフレ率はピーク時より大幅に低下したが、物価はコロナ禍前よりまだ高いため、有権者には物価高の感覚が根強く残り、人手不足が政治的にプラスの影響を及ぼすところまでいっていない。その点で、バイデン大統領に同情する。

次に考えられるのが「時間差」だ。経済の堅調さが支持率に反映されるようになるには、ある程度時間がかかるのではないか。バイデン政権や民主党は、有権者が11月までに経済の力強さをもっと強く実感してくれることを願っているはずだ。

次に、有権者にとって、経済はもはや最大の関心事ではなくなった可能性がある。もちろん、今も関心はあるだろうが、前述した文化的要因の優先順位のほうが高いのかもしれない。アメリカでは二極化が進んでいるからだ。共和党支持者は「共和党政権のほうが経済に強く、民主党政権は経済に疎い」と考えている。民主党支持者は、その逆だ。

つまり、実際に経済が堅調だという事実は有権者にとって、もはやあまり意味がないのかもしれない。