日本政治には「競争」が足りない

――日本政治の機能不全は有権者にも責任があるのでしょうか。政治家の責任でしょうか。

有権者と政治指導者の関係は「チキン・アンド・エッグ(鶏と卵)」だ。つまり、どちらとも言い難い問題だ。とはいえ、日本の有権者をとがめるつもりはない。政界の指導者らに、より大きな責任がある。有権者に良い選択肢を与えることができないのだから。日本の有権者には、「嫌いな政党」と「有能だと思えない政党」という選択肢しかない。

日本の野党はもっと努力し、自分たちの政治のクオリティーを高めるべきだ。それには、まず、野党が「団結」する道を探ることだ。そして、「いつでも政権を取ることができる」という覚悟を有権者に示さなければならない。民主党が自民党に勝ったとき、私たちアメリカ人の多くは、(日本の将来に対し)非常に楽観的な見通しを抱いた。「日本の政治にも、ついに『競争』の時代が訪れた」と。

日本は党派間の競走を取り戻す必要がある。政治というものは、与党と野党が競い合わなければ機能しない。少なくとも2009年には「競争」があった。(同年8月の衆院選で)自民党が負けたのだから。

日本には、競合的な政治システムを機能させるだけの十分な力がある。だが、それを実現させるには、野党がもっと競争力をつけなければならない。有権者に対し、自分たちは自民党に取って代わりうる力強い「選択肢」なのだということを示す必要がある。

「もしトラ」なら岸田首相はトランプを制御できない

――大統領選の話に戻りますが、「もしトラ」を想定し、「トランプ氏に影響力を持っていた安倍晋三元首相はもういない。岸田文雄首相はトランプ氏と渡り合えるのか」といった懸念が日本から聞こえてきます。

言うまでもなく、トランプの再選はアメリカのみならず、日本を含む世界にとって最悪だ。欧州の政治指導者は、トランプが復活するのではないかと非常に心配している。アジアの政治指導者らは、そこまで心配していないようだが。

トランプの復活でアメリカの民主主義が破綻し、機能しなくなったら、世界にとって大きな脅威となる。世界の存続にかかわる脅威だ。大統領選の結果は世界全体に、とてつもない影響を及ぼす。日本の(岸田)首相がドナルド・トランプの要求にうまく対処し、トランプを動かせるとは思わない。

スティーヴン・ヴォーゲル(Steven K. Vogel)
カリフォルニア大学バークレー校教授
政治経済学者。先進国、主に日本の政治経済が専門。プリンストン大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校で博士号(政治学)を取得。ジャパン・タイムズの記者として東京で、フリージャーナリストとしてフランスで勤務した。著書に『Marketcraft: How Governments Make Markets Work』(『日本経済のマーケットデザイン』)などがある。
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