日本の警察官は29万6194人(2022年度)で、この20年で3万人以上増えている。一方、犯罪(刑法犯認知件数)は減りつづけている。関西学院大学名誉教授の鮎川潤さんは「警察は『警察白書』などを通じて、治安の悪化を印象付けている。その内容を新聞などが無批判に伝えるため、警察の予算と人員は増え続けている」という――。(第1回)
※本稿は、鮎川潤『腐敗する「法の番人」 警察、検察、法務省、裁判所の正義を問う』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。
異例の対応が取られた2022年の『警察白書』
私たちは、街頭で警察官を見かければ安心感を得て、自転車で巡回している警察官には、自然にお礼の気持ちが生じる。さらに、バイクに乗って交通事故の現場に駆け付けようとしている警察官を見かけたりすれば、「お疲れ様」と感謝の念が沸いてくるものだ。しかし、警察を組織全体として見た場合、問題を抱えていないわけではない。
とりわけ上層部、国家公務員の総合職の試験に合格し警察庁に採用された、いわゆる東大卒などのキャリアを含めた組織、あるいは、それに、キャリア官僚ではなくたたき上げだが、署長などの幹部クラスとなった警察官を加えて見た場合に、天下りによる業者との癒着など、重大な問題が浮き彫りとなってくる。『警察白書』が、例年7月以降、閣議で了解されたのちに発表され、その内容の紹介が当日または翌日の新聞に掲載される。
ただし、2022年の『警察白書』は異例であった。というのは、『警察白書』の閣議への報告の直前、7月上旬に安倍晋三元首相が参議院議員の選挙応援活動の一環として奈良県の近鉄大和西大寺駅前で街頭演説をしていた際に、手製の銃によって銃撃され死亡したからである。『警察白書』の報告を遅らせ、内容を差し替えて10月に発表するという経緯があった。
警察庁としては、これまで国際的なテロリズムを想定し、その組織をターゲットとして対策を推進していた。警察大学校に付設された研究機関の文献を見ても、その記述は国際テロリズム一色で塗りつぶされている。ところが、日本人が、手製の拳銃で安倍元首相を単独で襲撃したのだ。