刑法犯の認知件数は19年で約5分の1になったが…
刑法犯の認知件数を見てみると、2003年は約279万件あったところが、2021年には約57万件にまで激減した。しかし、『警察白書』の内容を紹介する朝日新聞の見出しには、どこにもそうしたことをうかがわせるものはない。すなわち、これらの『警察白書』に関する新聞報道の見出しを見る限り、2003年以来、2021年まで19年間にわたって、犯罪の認知件数が減少してきているという事実に思い当たるものはほとんどない。
たとえば、2018年版『警察白書』を紹介する2018年7月24日(夕刊)の記事の見出しは、「犯罪対処にAI 虐待や特殊詐欺課題 警察白書」である。この見出しからは、犯罪の認知件数が減少していることは思いもつかない。読者は、虐待や特殊詐欺が増加したり深刻化したりしているので、それへ最新のコンピュータテクノロジーであるAIを用いて対処しようとしている、と受け取ることになる。
この記事の本文を注意して読むと、「刑法犯認知件数は02年をピークに年々減少している」という一文をはじめ二か所で書かれていることを発見する。しかし、見出しの印象は強く、本文でもサイバー空間での犯罪防止のほうが強調されており、この部分は見落とされたり、読み飛ばされたりして、印象に残ることはない。
警察庁は24日、2018年版の警察白書を公表した。犯罪全体は減少し続ける中、子どもや女性を対象にした犯罪やサイバー犯罪などが課題と指摘。これらに対処するため、犯罪情勢分析の高度化や人工知能(AI)の活用など新たな手法を積極的に取り入れていく姿勢を示した。刑法犯認知件数は02年をピークに年々減少している。官民が連携した防犯対策のほか、検挙人数が相対的に多い若い世代の人口が減るなどの社会的要因も犯罪減少の背景にあるとしている。若者に規範意識の高まりや外出しない傾向など行動の変化がみられる、とも分析した。一方で、児童虐待やストーカー、配偶者間暴力(DV)といった子どもや女性が被害者になる犯罪、特殊詐欺やサイバー犯罪など加害者が被害者と顔を合わせない「非対面型犯罪」への対応が課題だと指摘。犯罪発生情報を分析して次の発生を予測して捜査に生かすといった犯罪情勢分析の高度化▽AIなどの技術の活用▽警察が持つ情報の効果的な発信――などを進めていくべきだとしている。
*なお記者の氏名は省略した。
新聞記事は警察官僚の業績づくりに使われている
記事からは、子どもや女性が犯罪の被害にあわないように、AIなどを用いて対策を充実させるべきだという認識のみを得ることになる。このような認識を持つことが悪いと言っているわけではない。ただ、このことこそが警察が白書で狙っていることなのである。
すなわち、警察幹部は犯罪防止のためのAIを開発するために、コンピュータやソフトウェアなどの機材を購入するとともに、プログラミングなどのためのシステムエンジニアやプログラマーなどの人材を雇う費用を欲しいと言っているのである。予算と新たな人員を確保すれば、その警察官僚の業績となり、昇進のための好材料となるからだ。