「すれ違い」前提のコミュニケーションを頭に入れておく

客観的視点についても触れておくと、各種統計によってここ5〜6年で若手を取り巻く労働環境が改善される傾向が見られるのは明らかである(加えて、教育機会も著しく減少しているが)。ただ、繰り返すがそれと主観的に「ゆるい」と感じるかどうかは別の問題である(図表1参照)。

『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

質的負荷が高いと企業側は考えているのにその若手社員にとっては「ゆるい」と感じられているケース、また、質的負荷が低いと企業側は考えているのにその若手社員にとっては「きつい」と感じられているケースで、すれ違いが発生する。

新たに職場に加わるニューカマーは過去の自社の職場環境など知る由もない。過去の経緯から考える経営・管理側と、そうではない若手側のすれ違いを前提にしたコミュニケーションが必要となる。

「ゆるい職場=ホワイト企業」ではない

最後に、改めて「ゆるい職場」は今後の労働社会の大前提であるという点も確認しておく。もはや、「ゆるい職場」の善悪を語る意味はないのだ。

「若者を酷使するような企業を許さない」という社会規範の変化が政府の労働法改正を促し、結果として職場を運営するためのルールが大きく変化した。決して、価値観や雰囲気が変わった、などという曖昧なものではなく構造的な変化なのだ。

「ゆるい職場」は就業者に多くの恩恵をもたらした。余暇時間の増加、プライベートと仕事の両立、多様な経験が活かせる社会、そしてそれを後押ししてくれる組織の支援。筆者はこうしたポジティブな効果に注目している。

同時に、「若者の期待や能力に対して、仕事の質的負荷が著しく低く、成長機会になるようなタスクや経験が乏しく、フィードバックも少ない」こともわかっている。ただ、繰り返すがこれは不可逆な変化で元には戻らない、今後の労働社会の大前提となる変化なのだ。

なお、一部において“ゆるい職場=ホワイト企業”と同一視する言説があったが、全くイコールではない。

古屋星斗『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(日本経済新聞出版)

「ゆるい職場」のより分析的な定義については、第4章で実施している検証における「Loose」な職場が狭義の「ゆるい職場」であると考えられる。

ホワイト企業には様々なイメージがあるものの同分析で最も良い状態である「Secure」な職場であるケースもあり、単純化して同一視することは現状の理解に大きな誤解を生む。

働き方改革をはじめとする労働法の急速な改善の結果、「ゆるい職場」時代が始まった。

今後、育て方改革競争が起こり、2つの改革を合わせてはじめて、日本の人材活用は全く新しい段階に入ることになるだろう。

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