採用選考の中で「オヤカク」を実施する企業は少なくない。内定辞退や入社後の早期離職を回避したい人事部側の作戦だが、ジャーナリストの溝上憲文さんは「辞める社員はいずれ辞めるので、オヤカクの効果は薄いと判断するケースが多い。一方、新人の人生を決めると言われる“最初の上司”の言葉遣いに神経を尖らす企業は多い」という――。
退職届
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「オヤカク」には親族が参列する結婚式と同じような効果

6月から政府の指針に基づく2025年卒の採用選考が始まる。といってもすでに5月1日時点の内定率は77%(キャリタス調査)であり、指針は形骸化し、選考の早期化が定着している。

6月1日の選考開始日に内定を出した学生全員を集めて“内々定式”を実施し、経営陣との懇親会を催す企業もある。目的は改めて入社の意思を確認するためだが、同時に「オヤカク」を行う企業もある。

オヤカクとは、保護者に対して子供の内定を承諾してもらう行為だが、大きく①内定書承諾書に親のサインをもらう、②10月に内定式に親を招待する、③4月の入社式に親を招待する――の3つがある。その背景には、内定辞退や入社後の早期離職を回避したいという企業の思いがある。

そこまでやる必要があるのか。内々定の段階で親の承諾書の用紙を渡している建設業の人事担当者はこう話す。

「両親や親戚の人に言われて内定を辞退します、という学生が毎年一定数いる。中には最終の役員面接で『御社にぜひ入社したい』と宣言した学生が数日後、『母親に別の会社の内定先に入るよう泣かれました』と言って内定を辞退してきたということもある。そのため内々定の段階でオヤカクをするように促しているが、会社側から親に確認することはしていない」

また、オヤカクを内定辞退や早期離職防止の有効な手段と考える小売業の人事担当者は次のように言う。

「親族が参列する結婚式と同じような効果がある。簡単に離婚しにくくなるのと同様に退職もしにくくなる効果もある」

消費財メーカーの人事担当者はこう語る。

「学生によっては仕事の悩みを身近な親に相談することもあるだろう。内定時の確認や式典への参加を通じて親に会社のことを知ってもらうことも内定辞退や早期離職を避けるための一つの方法だと思っている」

一方ではオヤカクに反対という声もある。化学メーカーの人事担当者の考えはこうだ。