20代社員も就活生も慣れ親しんだ土地を離れる「転勤」はイヤ
「転勤」が大きな問題になりつつある。
人事異動で企業が社員に転勤を命じるのはなぜか。それは、本社以外に拠点を持つ場合、組織上の人事ローテーションをさせたい、また、新たなポストへの配置で人材育成を図りたいという狙いがあるからだ。
ところが、この仕組みを拒む社員が多く、頭を悩ます企業が増えているのだ。
子育て中の共働き世代にとって転居を伴う転勤は避けたい気持ちはわかるが、近年は20代の独身社員も転勤を嫌がる人が増えている。
サービス業の人事課長は「上司が入社3年目の男性社員に転勤を打診すると、『実家から近いところから通える距離ならいいですが、それ以外のところは勘弁してください』と言われたそうだ。最近は親元から離れたくないという社員も少なくないようだ」と語る。
全国に営業所がある食品関連会社も入社3年目の社員に上司が地方の営業所に転勤を打診したら「同居している祖父が病気がちで僕が面倒を見ないといけませんから無理です」と、断った。上司が「同居しているご両親もいるだろう」と言うと、「ふたりとも共働きで仕事が忙しいのです」と言ったそうだ。
同社の人事担当者は「ヤングケアラーということになるのだろうが、その社員の上司には『退職しては困るのでそれ以上無理強いするな』と伝えた」と語る。じつは彼以外にも転勤が嫌で辞める人も少なくないという。
「もともと全国転勤ありを前提に採用した総合職社員であっても、転勤するのが嫌で離職する人が一定数いる。今は上司に対して、本人の意向を尊重しつつ、転勤によって仕事の幅が広がるし、成長につながるメリットについて丁寧に説明するように言っている」と語る。
転勤嫌いは就活生の間にも広がっている。
医療機器メーカーの採用担当者は「生まれ故郷や学生時代に過ごした地域で生活したいという学生が年々増えている。転勤があることを伝えても『入社後3年間は転勤したくないです』と言う学生もいる。こちらとしては3年経ったら転職するつもりなのかと疑ってしまう」と語る。
実際に就活生の転勤嫌いは数字にも表れている。
パーソル総合研究所の「転勤に関する定量調査」(2024年5月30日公表)によると、就活生の19.4%が「転勤がある会社は受けない」と回答し、「転勤がある会社にはできれば入社したくない」が31.4%。計50.8%が応募・入社を回避したいと答えている。
また、「転勤は嫌だが、他の条件がよければ問題ない」が28.0%もおり、就活生のほぼ8割が転勤嫌いという結果になっている。