労働環境には問題のない「ホワイト企業」でも、若手社員の離職が大きな課題になっている。なぜ辞めてしまうのか。特定社会保険労務士の大槻智之さんは「若者の中には技能の習得などのスキルアップを労働の対価と捉える人もいる。離職を防ぐためには明確なキャリアビジョンを示す必要がある」という――。
残業
写真=iStock.com/shironosov
※写真はイメージです

ホワイト企業なのに若手社員が次々辞めていく

「なんで退職しちゃうのだろうか? 働きやすいはずなんだけど……」

こう嘆くのは中堅の事務用品メーカーに勤める人事部の新井さん(仮名)です。新井さんの会社は、労働時間の短縮や年次有給休暇の取得率向上などの働き方改革を重ねた結果、30%あった離職率が10%台まで減少しました。

一定の成果が出たこともあり、当初満足していた新井さんですが、残りの10%台の離職者層に気付き悩みは深まっていくのでした。

「若手社員の離職率が高いんです」

新井さんが直面したのはこれです。会社全体の離職率は低下したものの、相変わらず若手社員の離職率は高止まりしているというのです。これまでも3年以内に離職する率が高かったのですが、最近は1年過ぎたころに離職してしまうケースが増えてきたそうです。新井さんが離職者の退職理由を調査すると「もっと自分を高められる会社に行きたい」「今のままでは将来が不安になった」というものでした。

やりがいが持てずに退職する「ホワイト離職」

最近、ネットなどで使われ始めたワードに“ゆるブラック企業”というものがあります。いわゆるブラック企業と呼ばれる会社のように長時間労働やハラスメントといった問題はないものの、働きがいややりがいが持てない職場環境である会社のことを指して使われています。

また、この“ゆるブラック”とともに“ホワイト離職”というワードも耳にすることが多くなりました。ホワイト離職とは、ホワイト企業すぎて「やりがいが持てない」という理由で退職していく現象です。残業させない、休みはどんどん取らせる、気分を害されないように業務指導をするなど「ちょっとやりすぎじゃないの?」と思ってしまうような環境に物足りなさを感じて離職するケースが増えています。

問題がないレベルのゆるブラック企業に比べて、ホワイト企業のほうが積極的に環境を良くしようとしている企業と言えるかもしれません。ただ、いずれにしても「物足りない」と感じて退職するケースが増えていることは確かなようです。