日本は自らの強みを自らの手で捨てている
その一方で、日本の産官学が目標にしているイノベーターであるアマゾンの創業者が注目するカイゼンは、見なかったことにしているのである。GAFAMを目指していて、GAFAMの取り組みを取り入れようとするのに、その中で日本由来のものは軽視する。これが矛盾でなくて何だろうか。
もちろん、カイゼンの有用性をきちんと把握した上で「わが社はすでに十分に取り組んでいる」と判断するならばよいだろう。
だが、むしろその反対に、日本の産官学は自らの強みを自らの手で捨てている様子さえある。
カイゼンについての研究は、2010年以降、世界中で爆発的に増加してきている。
バージニア工科大学のエイリーン・ファン・エイキン教授らによれば、アメリカに加えてイギリス、スウェーデン、インドといった国を中心にカイゼン活動の研究は盛り上がりを見せ続けているという。そして、カイゼンの研究はこれまでは事例を基にしたお手本の提示といったものが多かったが、統計的・実証的な手法を用いてカイゼンの成功要因を抽出する研究が、近年になってようやく学術誌に掲載されだしたとしている。
経営学分野の論文で引用数が多い
海外では、1990年代以降、カイゼンについての研究を発表するための専門誌まで登場している。
「アジャイル生産」の分野で世界最多の引用数を誇る生産管理研究の権威、カリフォルニア州立大学ベイカーズフィールド校のアンガッパ・グナセカラン教授が編集長を務める『Benchmarking』誌のほか、『The TQM Journal』誌、『International Journal of Lean Six Sigma』誌、『Total Quality Management & BusinessExcellence』誌などが、カイゼンそのものやカイゼン手法の応用などの研究を取り扱っている。
学術研究の価値を引用数で判断すべきではないが、一例としてこれらの雑誌からの平均引用数(インパクト・ファクターやサイト・スコアなどと呼ばれる)は2~3、多数引用される論文がどれだけあるかを示すhインデックスは55を超える(55回以上引用される論文が55本以上ある)。経営学分野では比較的高い数値である。
これに対して、日本におけるカイゼンの研究は少なくとも社会科学的な視点からはかなり少ない。
たとえば、組織学会が発行する『組織科学』誌に収録された「改善活動」がタイトルまたはキーワードに入っている論文の数をみてみる。なお、組織学会は、日本経営学会と並んで、経営学分野で最大規模の学術団体である。
結果は、国立情報学研究所のデータベースに収録されている1968年から現在までの半世紀以上の間に、カイゼンに関する論文は3本しか掲載されていない。同じく『日本経営学会誌』においても、同データベースに収録されている1997年から現在までのすべての論文のうち、同じく3本のみがカイゼンに関するものである。