アマゾンはなぜ世界最大のECサイトになったのか。慶應義塾大学の岩尾俊兵准教授は「創業者のジェフ・ベゾスは物流の効率化だけでなく、ECサイトやアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の運営にもトヨタ生産方式を導入して成功した。日本では『カイゼン』の研究は下火だが、むしろ海外では年々注目が集まっている」という――。

※本稿は、岩尾俊兵『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

アマゾンの倉庫
写真=iStock.com/Teamjackson
※写真はイメージです

日本発の「Kaizen」で生産性が34%向上

アマゾン創業者ジェフ・ベゾスは、2010年の株主総会において、「Kaizen」という言葉を使って、株主に対してプレゼンをおこなった。

アマゾンが取り組んできた努力はカイゼンという言葉で表現できること、今後はそれを地球規模に適用して環境問題に焦点をあてたカイゼンをおこないたいと述べたのである。

実際に、アマゾン米国本社にはKaizenプログラムという制度が現在でも設けられている。そこでは、QC七つ道具やQCストーリーなどカイゼンに利用できる手法が教育される。そして、実際に、従業員は継続的にサービス提供プロセスを合理化し、ムダを排除し、顧客満足と従業員満足を向上させるよう求められている。

アマゾン米国本社の従業員向けブログ「The Amazon Blog: Day One」によれば、2014年には、カイゼンのために725チーム・小集団が組織され、2300人がKaizenプログラムに参加した。その結果、ラスベガスの配送センターでは、返品プロセスや歩行のカイゼンなどによって、生産性が34%向上し、仕掛品・中間在庫が46%削減されたという。

トヨタ生産方式が生産管理に導入されている

同じく2014年にラスベガスで開催された「AWS re: Invent conference」でベゾスが語った内容によれば、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の本質はトヨタ生産方式・リーン生産方式と同一であるという。このカンファレンスは、クラウド型サーバなどを提供するアマゾン・ウェブ・サービス利用業者向けの講演会である。

なお、2020年現在、アマゾン・ウェブ・サービスは、急速に成長しつつも長らく赤字続きだったアマゾンに莫大な利益をもたらしており、今ではアマゾンの基幹事業となっている。

こうした事例を挙げるまでもなく、ベゾスが日本の経営技術、特にカイゼンから学んでいることは有名だ。この点は、アメリカの生産管理系のコンサルティング・ファームではよく取り上げられる。

ジェフ・ベゾス自身も、アメリカの生産管理系コンサルティング・ファームとの対談やインタビューなどに応じているほか、近年アメリカの研究者などが提唱し発達してきている「Kaizen event」や「Kaizen project」といったコンセプトを使用し始めているほどだ。

アメリカの企業家、コンサルタント、学界が相互に影響しあいながら、カイゼンを取り入れ始めているのである。