※本稿は、岩尾俊兵『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
流行におどらされて強みを自分で破壊している
これまで日本企業は世界に通用する経営技術を生みだし続けてきた。
しかし、日本の産官学はこうした経営技術をコンセプト化して世界中に発信することにかけては、海外と比べて一歩出遅れていたといえる。こうした発信ができれば日本の産官学にとって多くのメリットがあるにもかかわらず、である。
それどころか、日本の経営技術がアメリカをはじめとした海外企業や海外研究者によってコンセプト化され、日本に逆輸入されることさえあった。経営技術の逆輸入という状況は、流行におどらされて自社の強みを自分で破壊してしまうことに等しい。
もちろん、経営技術をコンセプト化しないメリットも、当然存在する。たとえば、経営技術を自分たちにしか分からない言葉で語り、ムラ社会的に深く文脈に依存した状態にすることで、競合他社から容易には真似されなくなるというメリットである。
ただし、一時期はこうした状態だったトヨタ生産方式という経営技術も、後にはアメリカにおいてコンセプト化されていることを考えると、こうしたメリットは「時間稼ぎ」の効果しかないだろう。
なぜ日本企業は強みを捨ててしまうのか?
それでは、日本企業はなぜ、自らの強みを捨ててしまうのだろうか。
日本発の経営技術が逆輸入される状況は、必ずしも悪意ある人物によってもたらされるのではない。現場は愚直に経営技術を開発し続けており、経営者は真面目に国内外から情報収集を欠かさない。
そんな状況にあって、経営者が経営技術を逆輸入し、さらに現場はなまじ実直であるために「そんなもの現場ですでにやっていることの焼き直しですよ」などとは意見しない。
それゆえに、誰一人悪者はいないまま、逆輸入された経営技術がそのまま現場に導入され、ときとして日本の現場を破壊するのである。
ここで、日本企業が「なぜ強みを捨てようとするのか」「何に負けたのか」について、直接的な原因から順に、真因にまでさかのぼって考えてみる。
経営技術の逆輸入という状況が発生する第一の原因は、経営者がアメリカや諸外国から日本にもたらされたコンセプトに触れたとき、「これはもしかしたらすでに日本の現場でもやっているのではないだろうか」と考えもしないことである。