「海外に負けているはず」という思い込み

これがたとえば半導体センサーの購入などの通常の取引であれば、自社に需要があるか、すでに導入しているシステムがないか、現場に問い合わせるのが普通の経営感覚・リーダー感覚・ビジネス感覚だろう。その上で、コストとメリットを比較衡量して導入を決めるのが、一般的なビジネスパーソンである。

しかし、これがコンセプトや、コンセプトを基にしたパッケージやソフトウェアの導入となると、「海外に負けているはず」という思い込みが勝ってしまうのではないだろうか。そのため、現場に確認を取らずに導入を決定するか、確認してもすでに実施している経営技術と同一だとは気づかない。

だまし絵を鑑賞するとき「このだまし絵は○○にも見えますよ」と教えられないと、その仕掛けに気づけないように、人間は「見たいものを、見たいような姿で、見る」のである。だから、まず必要なのは、拙著『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)で紹介している事例などを見て「経営技術の逆輸入は思っているよりも頻繁にある」ことをしっかりと認識することである。

そうすることで、海外から発信された流行のコンセプトに触れたとき、一度立ち止まることができる。そして、ときには「たしかにこのコンセプトはすばらしい、しかしこれはもう現場で実施している」と認識し、その上で「これからは、わが社の取り組みを○○というコンセプトで説明することも可能だな」といった形で逆に利用すればよい。もうすでにやっていると鼻で笑うのではなく、海外のコンセプトをしたたかに利用するのである。

技術はあるのに、モデル化することに興味がない

もちろん、立ち止まって考えてみても、海外からきたコンセプトが現状では自社に足りない場合もあるだろう。その場合は、そのコンセプトを謙虚に、積極的に、取り入れればよい。

いずれにしても、新しい経営コンセプトに出会ったときには、一度は立ち止まってみることが大事である。

こうすれば、経営技術の逆輸入による現場の混乱はある程度避けられると考えられる。もちろん、本書を読めばその点はすぐにクリアできるというのは言い過ぎかもしれない。しかし、本書がきちんと読まれさえすれば、日本の産官学に支配的だった間違った認識は、多少なりとも変化するだろう。

ただし、これはもっとも“表層的な”原因とその解決法である。

これだけでは、経営技術の逆輸入を避けられても、日本からの発信にはつながらない。日本の産官学が、日本発の経営技術を使って、これまで以上の利益を得るという状況には直結しないのである。

経営技術の逆輸入的な状況が発生するもう一歩深い原因は、日本の産官学がコンセプト化にあまり積極的でなかった点にある。コンセプト化には抽象化や論理モデル化といった特徴がある。そして、日本の産官学は、どちらかといえば、具体的な経営技術を開発しつつも、それを抽象化・論理モデル化することにはあまり興味を持たなかったのである。