カイゼンの研究は日本で軽んじられてきた

それどころか、諸外国において研究の隆盛がみられる2010年以降となると、2誌を合わせても、筆者による論文1本だけしか掲載されていない。比較として「オープン・イノベーション」についてみてみると、2010年以降、6本の論文が『組織科学』誌に、2本が『日本経営学会誌』に掲載されている。

もちろん、これだけをもって、日本においてカイゼン研究が下火になっていると断言はできない。なぜならば、学術誌への掲載が少ないというのは、その領域の研究が衰退しているという原因以外に、「論文掲載におけるバイアス(これに近い概念として出版バイアスというものもある)」もあるからだ。これは、研究者の数や研究活動の活発度自体は変わらないが、論文を掲載してくれなくなっている可能性を指す。

だが、研究自体が下火にせよ、カイゼン研究にこうしたバイアスがかかっているにせよ、日本において「カイゼンは、日本の経営学界的には、それほど重要な研究対象ではない」と思われていることは確かである。

ここからは多分に筆者の主観にもとづいた議論であるが、日本においてカイゼンの研究をしているというと「本流ではない」という扱いを受けることが多い。

日本の産官学にもまだ挽回のチャンスはある

再度アメリカの話に戻ると、アメリカではカイゼン研究の専門誌が立て続けに刊行されるようになったほか、総合雑誌においてもカイゼン研究が存在感を増しつつある。

たとえば、エイキン教授にくわえて、最近では、マサチューセッツ工科大学のウィルジアーナ・グローバー准教授やテキサス工科大学のジェニファー・ファリス准教授などが『International Journal of Operations & Production Management』誌や『International Journal of Production Economics』誌などでカイゼンをコンセプトにまとめながら、この分野をけん引している。

彼女らはカイゼンを「Kaizen event」や「Kaizen project」「Continuous improvement project」などといった概念でとらえなおしている。

岩尾俊兵『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)

その上で、彼女らは、カイゼンを製造業だけでなくサービス業などさまざまな業種に応用し、そこには共通の成功法則があるとした。もちろん、日本においてはサービス業などの分野でもカイゼンがおこなわれているというのは当然のことだ。当然すぎてそれをコンセプトにしようとした人がいなかったともいえる。

ただし彼女らは、カイゼンに対して、いまだに前述の三つ以上の呼称をバラバラに用いている。ここからも分かるように、彼女らにしても、統一的な確固たるコンセプトにまとめられてはいない状況なのである。

だからこそ、今ならばまだ日本の産官学にも挽回のチャンスはある。

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