ドイツ発の「インダストリー4.0」というキーワードは、日本でも大いに注目を集めた。しかしその本質をとらえた議論は少ない。SAPジャパンの村田聡一郎氏は「日本ではIoTを取り入れたスマート工場がインダストリー4.0だと理解されているが、それは“木を見て森を見ず”だ」と指摘する――。
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スマート工場は「生産」という部分にすぎない

ドイツ政府が2011年に発表し、国家戦略プロジェクトとして推進している「インダストリー4.0」が日本でも注目され、とくに製造業を中心に2015年から17年にかけて一大ブームを巻き起こしたことは、ご記憶の方も多いだろう。だが残念ながら、日本国内では「インダストリー4.0の本質は何なのか? 何が本当の脅威なのか?」について、正鵠(せいこく)を射た議論はほとんど行われていない。

インダストリー4.0に関して、日本のマスコミでは“木を見て森を見ず”な論評が飛び交ったうえ、流行に飛びつきがちな日本市場の特性もあいまって、とくに2016~17年は、製造業で「スマート工場」が大いにもてはやされた。「IoTを取り入れて工場の生産性の向上を図ることが、インダストリー4.0である」と曲解されてしまったわけだ。

だが、本稿で解説するとおり、インダストリー4.0が視野に入れているのは「第4次産業革命」であり、デジタルの力を利用して企業内の業務プロセスや企業間をシームレスにつなぎ(フィジカルなギャップを埋め)、全体最適を実現すること、である。これは製造業と非製造業を問わない。

いっぽうスマート工場は「生産」という一プロセスの中のカイゼンにすぎず、それだけに注力することはむしろインダストリー4.0が目指す全体最適とは対極にあると言ってよい。

「働き方改革」に踊らされている場合ではない

欧米企業の多くは、90年代~00年代に業務プロセスのERP(基幹業務システム)化、すなわち「インダストリー3.0」への移行を完了した上で、さらにインダストリー4.0に対応してビジネスモデルをバージョンアップしつつある。いっぽう日本企業の現状はといえば、グローバルに事業展開している大手企業でさえ、実質的に「インダストリー2.5」のレベルに留まっているケースも少なくない。

もはや日本人社員の強い現場力に頼るのも限界に達しつつある。いまこそ日本企業をリードするあなたは、「働き方改革」といった実体のないキーワードに踊るのでなく、現実を見据えた施策に踏み出す必要がある。