経営者が動かないと「4.0」には近づけない
こうした状況下、では日本勢は、どのように対応したらよいのだろうか。
結論から言えば、これに対応できるのは経営者だけだ。
生産技術部門や工場長は、「生産」の工程にしか権限がない。工場の「前工程」や「後工程」には権限は及ばない。それをやろうとすれば、いわゆる「組織の壁」を越えて前工程や後工程と協力しなくてはならないが、それは過去50年、彼らがあまり得意としていないスキルだ。
しかもインダストリー4.0は文字通り、業務プロセスに「革命的」な変革を起こすことになる。前工程や後工程においても改善レベルでは済まず、これを実行できるのは部門長や部門管掌役員レベルではない。工場内の個別最適ではなく、全社視点での全体最適を実現する、と経営レベルで決断しなければ絶対に対応できない。
経営者がインダストリー4.0を「スマート工場化」とみなし、「工場長や生産技術部長が頑張ればよい活動」と誤解している限り、日本の製造業は4.0には近づかないのである。
「タテ軸オンリー」か「タテ軸×ヨコ軸」か
もうひとつ念のため付記しておくと、「スマート工場化などのカイゼン」と「インダストリー4.0が目指す全体最適」は、いっぽうが常に優れていて他方は劣っているという話ではまったくない。
前掲の「図表3 インダストリー4.0が目指す姿」における、タテ軸とヨコ軸のどちらを追求するのが最適かは、企業ごとに違う。ヨコ軸つまりデジタルの力を借りて全体最適を目指すことのハードルは決して低くない。すべての企業が一様に4.0を目指すべきだというものではない。
ただ大切なのは、「タテ軸」と「ヨコ軸」という2つの異なる選択肢があることを理解したうえで、どちらを選択するか、を経営者が真剣に検討することだ。自社が「タテ軸つまり生産現場におけるカイゼンに集中する」か、「タテ軸×ヨコ軸の合わせ技、つまり従来の強みにデジタルの力を掛け合わせて合わせ技で右上を目指す」か、の選択だ。この2つがまったく異なるアプローチであるのはすでにおわかりだろう。
一番悪いのは、インダストリー4.0を過去数十年間ずっとやってきたカイゼンの延長線上にあると勘違いし、カイゼンの継続で4.0に対応しているつもりになってしまうことだ。
SAPジャパン株式会社 IoT/IR4ディレクター
顧客およびパートナーとの共同イノベーション事業開発を担当。海外事例にも精通し、講演・執筆など多数。SAP IoT研究会主宰。米国ライス大学にてMBA取得。