中国全土に拠点を広げてきたホンハイが、台湾に戻ってきた
「台湾には100年に1回のチャンスが到来している」――台湾・高雄市の中小企業経営者・陳忠義さん(仮名)は興奮気味に話す。米中貿易戦争が長期化するという見通しから、大陸に進出した台湾企業が続々と戻ってきているのだ。
そのひとつが、シャープの親会社である鴻海(ホンハイ)科技集団だ。1988年に深圳で中国初のパソコン部品生産工場を稼働させて以来、中国全土に拠点を広げてきた。だが今春、深圳と天津で行っている通信機器やサーバー関連の生産設備の一部を台湾の高雄市に移転させると発表した。
高雄市の「和発産業園区」の公式サイトは、ホンハイの新工場は高度に自動化された1万2000坪のスマート工場であり、5月24日の段階ですでに手付金も指定口座に振り込まれていると伝えた。
こうした動きを台湾の人たちはどう受け止めているのか。筆者は陳さんに電話で話を聞いた。「100年に1回のチャンス」という話に続けて、陳さんは「大陸から台湾に企業が戻ってくれば、私の生まれ故郷の高雄市もこれから大いに発展しますよ」と声を弾ませていた。
「産業も人も大陸にのみ込まれるのではないか」という不安
2000年以降、多くの台湾企業が中国に拠点を移し、台湾から輸入した電子部品をモバイルやパソコンなどの最終製品にして欧米市場に出荷するというサプライチェーンを構築してきた。その反面、高雄市では、稼働を停止した工場が続出、若い台湾人も雇用を求めて大陸を目指すという「空洞化」が進んだ。
高雄市のみならず、空洞化は台湾全体における長年の懸案だった。いま台湾市民を大きく支配しつつあるのは、「このまま行けば産業も人も大陸にのみ込まれるのではないか」という不安感だからだ。前出の陳さんのように「今後製造業の台湾回帰が進めば、経済は活気を取り戻し、就職難も解消し、住宅やオフィスの不動産需要も生まれ、台湾経済全体に好循環が生まれる」という声はよく聞かれる。