台湾を「ハイテク・アイランド」として成長させる

台湾の蔡英文政権は2019年1月から、「歓迎台商回台投資行動方案(台湾企業の台湾回帰投資行動を歓迎する計画)」を実施している。その狙いは、米中貿易戦争をチャンスととらえて、中国本土に進出していた台湾の製造業を呼び戻すことだ。

計画では、「米中間の衝突は国際的なサプライチェーンを再編させ、従来の貿易秩序に衝撃を与えるもの」としたうえで、「投資回帰を促すことで、台湾を世界のサプライチェーンの中心にする」と謳っている。

台湾政府は大陸から回帰する企業に対し、最初の2年間の工業用地の賃料を無料とするほか、電力や工業用水の供給を安定化させるため設備増強を打ち出した。技術を持つ高度人材や生産ラインに立つ労働者などのスムーズな確保を進めるため、複数にわかれていた窓口もひとつに統一。資金調達については、台湾政府がイノベーション支援のために設立した「行政院国家発展基金」を母体として低利の融資を行う。

この計画のもうひとつのポイントは、立地を1カ所に集中させるのではなく、台湾全土に分散させる青図を描いていることだ。陳腐化した設備を、ただ移転させるのではなく、大陸で予定されていた最新設備の投資を台湾に振り向けさせることで、台湾を“ハイテク・アイランド”として成長させることを狙う。

台湾の最終的な客先は、中国ではなく欧米

台湾経済部によると、6月末時点で台湾企業81社が大陸からの投資シフトを表明している。たとえば電子機器のEMS大手の仁宝電脳工業(コンパル)は米国向けルーターの生産の一部を戻した。光宝科技(ライトン)はサーバー向け電源装置の生産を拡大させる。和碩聯合科技(ペガトロン)、広達電脳(クアンタ)、台達電子工業(デルタ電子)、台郡科技(フレキシウム)など、台湾のIT機器メーカーも移転を進めている。

2019年末までの投資金額の目標は5000億台湾ドルだが、上半期だけで4000億台湾ドルに達しているという。台湾企業の投資シフトがこれだけ早いのはなぜだろうか。ひとつの理由は「政府の打つ手の早さ」だろう。さらに、もうひとつの理由として、台湾製造業の最終的な客先は中国ではなく欧米だったという点が挙げられる。

台湾経済部の発表によると、海外に進出した台湾企業の販売割合は、「第三国向け販売」が74.6%で、「現地向け販売」は20.7%だ。たとえばホンハイは、中国全土に30を超える生産拠点を持っているが、主要顧客は米アップルであり、その生産活動は主に米国向けだった。